2011年08月31日

8月31日

「ようやく夏が終わるね」カレンダーをめくりながら、マスターが呟くように。
「そうですね」とバイトの女の子がグラスを拭きながら。
「今日で8月が終わると思うと、嬉しいよ」
「そんなに8月が嫌いなんですか?」
「そうだね。8月は一番嫌いかな。二番目が2月で、三番目が1月」
「8月は暑いからっていうのは判るんですけど、2月と1月はなんでですか?」
マスター、腕を組んで首を傾げて。
「何となく、なんだけど。2月はあの空気感が嫌なんだよね。漠然と寂しい感じがする辺りとか。バレンタインにも縁は無かったしね。1月は、正月明けの間延びしたような感じとか。逆に10月、11月、12月の緊張感のある夜とか、年末へ向けて盛上がっていく雰囲気とかは好きだけど。運気も上がっていくし」
マスター、煙草を取り出して口にくわえる。火を点けて、大きく吸う。
「ビバラ、秋だね」
女の子がその言葉に苦笑する。
「今年は何か夏らしいことしました? 夏の思い出」
女の子が拭いたグラスをカウンターに並べる。そして、大きな欠伸をひとつ。
「何かしたかな? 一応、盆踊りには参加したけど。それくらいかな。あとは、鱧しゃぶとそうめんくらいかな」
「鱧しゃぶ、ですか?」女の子が小さく舌を出して、唇を舐める。
「そうそう、人生で二度目の鱧しゃぶ。美味しいよ。出汁の入った鍋に、さぁっと、薄く切られた鱧の身を通して、ポン酢で食べるんだけど。これが、なかなかいいんだよ。ポン酢には紅葉おろしとネギを入れて。噛み締めたときの鱧の身の弾力とか、口に広がるうま味とか、たまらないね」
女の子がツバを飲込む。
「最後は雑炊にするんだけど、鱧のうま味が移った出汁にご飯を入れて、卵をかけて。思い出すだけで、ヨダレが溢れてくるよ」
マスターも大きくツバを飲込む。
「夏は鱧だね。でもこれぐらいかな、今年の夏の思い出は。亜沙美さんは?」
女の子、話を振られて、ちょっと考える。
「友だちとサイパンに行ったとき、食事をしてて−−テーブルにはお冷やがあったんですけど、グラスの水がなくなったときにボーイさんが来て。
私には流暢な日本語で『もう、終わった?』って聞こえたんですよ。でも、水が欲しかったから首を横に振ったら、何故かボーイさんが注いでくれなくて。私と逆に頷いた友だちには注いでくれたんですけど。
何で?って思って、その話を友だちにしたら、『モア ウォーター?』だよって。かなり恥ずかしかったです」
マスターが苦笑する。口から煙を漏らして。
「でも、夏の思い出、と言うより、亜沙美さんらしいオールシーズンな失敗だと思うけど」
「失礼ですね。夏の浮かれた気分が起こした失敗ですから」と、女の子、頬を膨らませる。
「そう言えば思い出したよ、今年の夏の思い出。怖い夢を見たんだよ、この前。スプラッタ系の怪物に襲われるような。追いつめられて、怪物の顔が迫ってきてね、荒い息が顔に届くくらい。子どものときからホラー系は苦手だから、すごく怖くてね。それで、その怖さに目を醒ますと−−
目の前に、彼女の寝顔があって−−暑さでとても苦しそうに唸っていた、というお話」
息を止めて聞き入っていた女の子の口から呆れた笑い声が漏れてきて。
マスターがさりげなくニヤリと笑って。
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2011年08月18日

淫夢

忘れかけた頃に夢の中に現れる女の話である。
女は名を***と言った。
いつも目が覚めれば思い出すことができなかった。

女は真白い肌に、黒く長い髪だった。
胸は薄く、長身でほっそりとした印象だが、臀は大きく、適度な肉感を保っていた。
顔はわずかに瓜実で、目は大きく、そして睫毛が長い。
鼻梁は高く、綺麗に整い、唇は小さかった。
女は「耳がチャームポイントなの」と言った。
確かに可愛らしい耳だった。大きすぎもせず、小さすぎもしないのだが、耳孔の脇にある小さなホクロが不思議な魅力を湛えていた。

女はたびたび私に課題を与えた。
「手を使わずに、服を脱がせて」或いは「口だけでわたしを楽しませて」などと。
私はその言葉に従い、女を手を使わずに脱がせ、或いは唇と舌だけで快楽を与えようとした。

興に乗ってくると私たちは全裸でワルツを踊ったり、カードゲームをしたりした。
片方の手を握り、もう片方の手を腰に添えて、ときに互いの腰を引き寄せ、背中を抱きしめ、クルクルと踊った。
カードゲームではそれぞれへの愛撫が賭けられた。
勝利した側が相手の肉体の好きな箇所へ愛撫をするのである。
負けた側は、目隠しをされ、愛撫されている間、声を出してはいけない。
女は敏感な箇所を責められたときよりも、羞恥の濃い場所を責められたときの方が官能的な呻き声を漏らした。

肉体の悦びが昂り、お互いが濃厚なひとときを持ちたくなってくると女は私を組み敷き、潤度と粘度の高い箇所を私の突端にあてがい、ゆっくりと快楽を高めていった。
わずかに硬い部分同士が触れ合い、溢れてきた女の体液が私の腰の辺りを濡らしていく。
次第に私の突端は彼女のクレパスに飲込まれ、ひとつに繋がった。
女が腰を前後に動かすたびに、私の茎の尖端にある膨らみは、ぬらりとした女の内部で優しく、愛された。
女が好んだのは、互いに座った状態で愛し合うことだった。
曰く「とても密着しているから」とのこと。
私はと言えば、女の後ろ姿を眺めるのが好きだった。細い腰と豊かな臀部という魅惑的な造形は見飽きることがなかった。ただ、官能的な表情の女の顔を見ることができないないのが残念だった。

私たちは肉体が可能な限り、あらゆる角度で、あらゆるスタイルで交わった。
女は愛し方をよく知っていて、「これは古代インドで」とか「秦の時代の中国で」、または「中世のヨーロッパで、貴族の間で流行ったのよ」とその知識をたびたび披露した。
体位の変化に伴い、当初ゆっくりだった腰の振りは次第に速さを増していき、溢れる声も大きくなった。
前後の動きも上下に変わり、浅い抽送から、深いものへと移っていった。
深く強くこちらが呼応すれば、女は悦びの声を漏らした。

私の肉体から蒼白い存在が放たれると、女はいつもそれを神聖な箇所で受け止め、満足げな表情を浮かべた。そして、またね、といって夢の世界から消えていくのだった。
もしかしたらいつの日か夢の中に子どもを連れてくるのでは、と思ったりもするのだが。
杞憂だろうか。
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2011年08月17日

ご馳走

スタンゲッツを聞きながら、マスターが新聞をめくっている。
と、そこへバイトの女の子がお茶の入った湯呑みを運んできて、マスターの前に置く。
「亜沙美さん、最近何かご馳走食べた?」
マスター、ありがとうとお礼を言って、お茶を啜りながら。
女の子、束の間考えて、「美味しい洋食ですね」と。
マスターがその言葉につられて女の子へ視線を向ける。
「この前、たまたま見つけて入ったお店だったんですけど。カウンターだけの小さな洋食屋さんで、10人も入ったら満席になるような狭さなんですけど、マスターの仕事がよく見えて楽しかったです。
70歳くらいの長身で、ダンディーな方がマスターなんですけど、若いコックさんの動きとは違った、アジのある動きなんですよね。チャーミングな感じの」
マスターが感心したような表情を浮かべて、
「熟練の手技って言うのは、カッコいいからね。ひとつひとつが確実で、カンロクがあって、どこか優雅な感じがして」と。
そうですね、と女の子が頷く。
「そこのマスターは、スパイダーズの井上順似なんですけど、カツレツを作る際の動きがセクシーでしたね。パン粉をつける動きも、揚げているときの動きも。
指の先で揚がり具合を確認するんですけど、DJがレコードをスクラッチする動きみたいに滑らかなんですよね。浅めのフライパンを並べてオムレツを作ったりしながら」
いいね、とマスターがニヤリとしながらアゴの辺りを擦っている。
「ハンバーグとカツレツ、白身魚のフライにオムレツとサラダって組み合わせだったんですけど、至福のひとときでした。お客さんは私たち以外に二人だけだったんですけど、嬉しそうに食べてましたね。フライにかかったタルタルソースが美味しくて」
女の子が少しうっとりとした表情をしている。
「羨ましいよ。こちらは最近ハズレばっかりでね。お寿司が食べたくなって入ったら、全然鮮度がよくなかったり。焼肉屋でもイマイチな感じで。イタリアンも最悪だったね。前菜のサラダで思ったんだけど、香りが立ってないっていう。スパイスもハーブも、まして食材の風味も感じられなくて。結局、最近食べた中でいちばん美味しかったのは、輸入食材店で買った賞味期限切れのチーズと赤ワインだね」
女の子が「チーズとワインですか」と呟くように繰返す。
「そうそう。赤ワインと濃厚なチーズ。とくにチーズがよくてね。クセのあるチーズと言えば、青カビチーズって思うでしょ? でも、それよりもクセが強くて濃いチーズがあってね。ウォッシュタイプって言うんだけど。これの熟成が進んだのが納豆のような臭いなんだけど、濃厚でいいんだよ。これを食べて、濃い赤ワインんで口を洗ってって食べ方なんだけど。まさにマリアージュだね」そう言って、ツバを飲む。
「とても大人な味わい方ですね」
「そうだね。お金はそんなにかからないんだけど、満足度は圧倒的に高いよ。前にお好み焼き屋なんだけど、ワインセラーがあって、粉もん以外にも鴨肉のコンフィとかジビエ系も結構あるっていう変な店に入ってね。そこで何かクセのあるチーズありますかって聞いたら自分が食べるように熟成させてるんですけどって、溶けかかったものを出してくれてね。これがとても濃厚で忘れられなかったんだけど。今回、改めてチーズは賞味期限切れの方が美味しいんだなと思ったよ」マスターが大きく頷いている。
と、女の子「マスターも、晩年ほどいい味が出るんじゃないですか」と、皮肉そうな笑みを浮かべて。
「どうだろう。すでに賞味期限が切れてだいぶ経ってしまったような」と、マスター、肩をすくめて、アメリカのコメディアンのようなポーズをとって。
ふたりの笑う声がこだまして。
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2011年08月16日

淫愛

ある夏の記憶である。
私たちは夜のとばりが下りてくる頃になると部屋を出て街を歩き、太陽が支配する昼の間、カーテンを締めた真っ暗い部屋で愛し合った。

「夏の太陽が嫌いなのよ」彼女の言葉により、百日紅の花が咲き出す頃から秋の蟲が啼き始める頃まで、私たちはそんな生活を送った。

部屋の中に時計はなかった。
カーテンの隙間からわずかに射し込んでくる光と、窓の外の気配だけが私たちの時計だった。

起きている間私たちは、生理的な行為を除けば、純粋に愛し合う行為のみを繰返した。道具を用いることもなく、相手を傷つけることもなく、ふたつの肉体のみでできる愛の行為を繰返した。
「あなたはいっちゃダメなんだから」
あらかじめ私の絶頂は遠ざけられ、行為の終わりにのみ与えられた。
それゆえ私は、自己の肉体的な快楽を抑えながら、彼女の肉体を愛した。

ベッドの近くにはよく冷えた一本の白ワインが置いてあった。
喉が渇けばそれで潤した。
ときに彼女は口にワインをふくみ、私に口移しで飲ませてくれた。
口腔から口腔へワインが移ると、蔓のように舌が絡み合い、愛の時間が始まる。
両の腕が肉体に絡む。
それぞれの背中を強く抱き寄せて擦り、臀部の肉を撫で、掴み、耳を、項を、乳房を、乳頭をまさぐり、舐め、噛む。
「愛している」と言えば、彼女も「私も」と言い、手は下降し、互いの愛の象徴を愛おしんだ。
手の愛撫による興奮が高まってくると、口による愛撫へ移った。
彼女のワインをふくんだ唇が私の肉紫色の茎を包み、心地よく冷やした。
ときに強く吸い、丁寧に舐める。白粉花のような穂の部分へも、果実へも入念な愛撫が施された。
私も彼女の花芯を丁寧に舐めた。美しい花弁へも舌を這わせ、クレパスから滴る愛液を私は何度も味わった。彼女もまた私の尖端から溢れた蜜を何度も吸った。

彼女の感情が高まってくると、私たちは肉体を結合させ、重ねた。
腰では前後へのシンプルな動作を繰返しながら、両の手と口では表現の豊かな交歓を行った。
基本的に私が上になるか、彼女が私の上に乗るか、私が彼女の背後にいくか、横臥した彼女と脚を交錯させて結合するか−−そうしたエターナルな体位であったが、飽きることなく、心地よい疲労が訪れて眠りに就くまで、続けた。

「わたし思うの。この行為は、とても美しい行為だって。肉体以外に何も使わずに愛を表現しているのよ。言葉よりも、もっと深いところで愛を確認しているって思うの。あなたが最後に、わたしのなかで果てるとき、わたしはいつも幸福を感じるわ」
彼女の満足げな言葉は私を喜ばせ、また何度も欲情させた。

そんなふうにして私たちはひと夏を過ごした。
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2011年08月15日

乳房に関するメモ

ルネサンス時代のヴェネツィアでは、女性のバストを剥き出しにすることが政府により奨励されていた。
男性の政治への関心を遠ざけるためだったとか。

古代エジプトでは細いバストが、
古代ギリシア・ローマ時代には豊かに盛り上がった乳房が、
18世紀のロココ時代には、掌サイズの林檎のような乳房が好まれた。

ロココ時代の貴婦人はミルク風呂に入り、香油で入念にマッサージをし、
出かける際には、胸元に白粉をはたき、乳房にほんのり紅をさしていた。

フランス宮廷では乳房をかたどったワイングラスが流行った。

王妃マリー・アントワネットは、自身の豊満なバストを石膏にとり、プラチナの果物皿を作らせた。

マリーのバストは109、ウェストは58。

聖母マリアの乳にはあまたの病気を癒す力があると信じられている。

魔女狩りの際に、定数外乳房は魔女の証とされた。

1885年の労働博覧会では、人工乳房が展示され、偽乳房の「マミフ」は当時の女性の間で流行った。マミフは空気で膨らませるものであったため破裂することもしばしばだったという。

古代では女性の乳房は豊穣を表した。

15世紀後半に登場したアニェス・ソレルの肖像画は、乳房が性的魅力のあるものとして描かれ、人々に衝撃を与えた。

古代ギリシアにおいてはブラジャーの原型と見られるものが存在していたとか。

中世のフランスでは、胸よりも脚の方が性的なものとして見られ、脚による性戯が密かに流行った。


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2011年08月14日

欠伸

昼下がりのラジオでは誰かのリクエストハガキが読まれている。
マスター、グラスに水を注ぎながら、大きな欠伸をひとつ。
それを見て、バイトの女の子も、欠伸をする。
そして、女の子が「やっぱり、欠伸ってうつりますね」と。
マスターが軽く笑って「前に欠伸している猫の写真を見ていたら欠伸が出たというのがあったよ」と。
「感染力強しですね」と女の子が微笑む。
女の子の前にグラスが差し出される。女の子がグラスに口をつけて、飲む。
「そう言えば、亜沙美さんて、夜中に何かの気配で目が覚めることってある?」
「あまりないですね。だいたい一度眠りに就くと朝までグッスリ派です。田舎にいるときに震度4くらいの大きな地震があったんですけど、全然気付かなくて、皆に唖然とされたことがあります」
マスターがその話に軽く笑う。「亜沙美さんらしいね」と。
「オレはね、意外と気配に敏感ていうか、誰かが隣に居たら眠れないんだよ」
「じゃあ、彼女さんと一緒に眠れないじゃないですか」
「だから、別々に寝てるよ。何より夏は暑いから、離れている方がラクだしね。彼女がクーラー嫌いっていうのもあるけど」
マスター、女の子のグラスに水を追加して、自分もグラスに注いでひといきに飲む。
「この前、眠れない夜があってね。たまに−−月に一回くらいかな、そんな夜があるんだけど。別に霊感が強いわけじゃないんだけど、人気を感じるんだよ。気配が消えた頃に時計を見ると、だいたい午前2時とか3時なんだけどね」
「それって、恐い話ですか?」
「今回のは、ある意味怖かったかな」
そう言って軽く笑うマスター。女の子は不安げな表情を浮かべている。
「目を開けても見えないんだけど、目を閉じると気配を感じるっていうかね。傍に何かがいるように感じて眠れないっていうか。
だいたい、気分的に冴えてないときが多いかな。身体が重く感じて眠ろうとするんだけど、深く眠れないっていう。一応、眠っているんだけど、意識がある感じっていうかね」
女の子が怪訝そうな顔でマスターを見つめている。
「で、四日くらい前もそんなので眠れなかったんだよ。壁際にベッドをおいて寝てるんだけど、壁に何かがいるような気がして」
女の子が、小さく悲鳴を上げる。
「昔から−−小学生くらいのときからかな、そんなことがあるから、今回もアレかなって思ってたんだよ。誰かに見られているって。
ただ、今回は若干、壁の気配にリアリティがあったっていうか、身体を何かが触っているような感じがしたりして。ほんとうに気味が悪いっていうかね。ちょっと金縛り的な感じで動けないんだけど、身体を何かが触れているっていう」
女の子が両手で顔を覆っている。
「まぁ、別にそれだけで、何もなかったんだけど。時計を見たら、やっぱり午前3時くらいでね。あぁ、またかって」
女の子、まだ怪訝そうな表情を浮かべながら「終わりですか?」と。
マスター、軽く首を横に振って「で、その続きなんだけど。昨日−−」と。
「ベッドの下を掃除してたら、出てきてね。その正体と思われるものが」
女の子が、ツバを飲込む。
「−−茶色い、昆虫の屍骸が。こいつか、って思ったね」
女の子が鼻の孔を膨らませて、「それも怖いんですけど」と。
マスターが大きな声で笑う。
「ほんとに不思議だったよ。キッチンから離れてるし、食べものとかもないからね。ちなみに学生のときは、枕元をハサミムシが走っていったっていうのがあってね。水場からかなり離れているのに」
半ば笑いながら、首を傾げるマスター。ハンカチを取り出し、首筋の汗を拭う。
それを見て女の子。
「マスターの体質に拠るんじゃないですか。汗で湿っていて、アルコール臭がするっていう」
マスターの口から小さく息が漏れて、二人の笑い声が店に響いて。
ラジオからはボサノバが流れてきて。
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