2012年01月28日

淫唇

柔らかい唇だった。
艶かしく潤い、指でなぞるだけで、官能さが込み上げてきた。
女は目を閉じて、私に口づけをねだった。
白い肌と赤い唇のコントラストが欲情を誘う。
私は女の右の頬に手をあて、顔を寄せ−−唇を重ねた。
心地よい弾力が私の唇に訪れる。
強く押付け、少し離し、顔を見つめ−−私は何度かそんなことを繰り返した。
女の顔は目を閉じたままであったが、どこかに恥じらいと性の愉悦とが混じり、いっそう艶やかな表情になっていった。
何度目かの口づけの際に私は女の唇に舌を挿し込んだ。女の唇が開かれて、私の舌にぬるりと絡んできた。淫らな触手のようだった。
舌と舌がもつれ合い、互いの腔内を行きつ戻りつし−−息が荒くなり−−。
女の顔を確かめると、白い頬が紅みを帯び、うっすらと開かれた目が私に次のものを求めているようだった。
だが、私はその唇から離れたくなかった。
世界のあらゆらものの中で最も官能的な、唇から。
私は女の唇を確かめるように、今度は軽く噛んだ。
女の手は私の顔を弄り、私の手は女の身体を弄っている。
白く細い指が耳朶に、耳孔に、項に、小鼻に、唇に挑発するように、優しく触れる。
私の指は女の喉を、鎖骨を、乳房を、肋を撫で−−臀部を強く掴んだ。
女の唇の間から息が強く溢れた。
今度は衣類の隙間から手を挿し込み、大きな臀部を強く、荒々しく掴み、その愛撫に呼応するかのように激しく息の漏れてくる唇を唇で覆った。
閉じられていた女の目が開かれて、さらに淫らな表情になった。
私は臀部を弄っていた手を女の前部へと移し、もうひとつの唇を指で広げた。
温かい液体が指に絡む。
私は貝のような、艶かしい感触を何度も確認しながら、最も敏感な花芯を弄った。
呼吸が大きく速くなり、女の目は懇願するように、私を見つめている。
女のすべてが愛おしくなってきた。
私は女の衣類を剥ぎ取り、下半身を露にすると、潤いを湛えた桃色の花びらに口づけをした。私の舌にも潤いは伝わり、更なる欲情を導く。
女も欲情が加速してくると、その体位を変え、私の下半身に頭部を寄せた。
そして、私の下半身から衣類を奪い、淫茎に魅惑的な唇をあて−−官能的な愛撫を始めた。淫らな音が空間に響く。
欲情に押されて私も女の花びらに激しく舌を這わせた。激しく振る舞うほどに、女の唇には力が込められ、愛撫も力強くなっていった。
海の水よりも濃いほどに潤いが充ちてくると、私たちはようやくひとつになった。
互いの肉体を交錯させ、五感のすべてを官能のなかに埋没させた。
喉が渇けば互いの体液を口にふくみ、感応を確かめるように見つめ合い、いくつもの敏感な場所を指で刺激し、互いの肉体から放たれる生々しい匂いを共有し、淫らな音で痴態を加速させた。
だが、私が最も堪能的だと思ったのはやはり女の唇だった。
禁断の果実とも言うべき、柔らかい唇に触れるたびに私は欲情し、幸福と安寧を感じたのだった。
posted by flower at 14:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 淫詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月21日

悪魔の手

学生時代の友人Nの母という人物から電話があった。
入院しているNが会いたいと言っているのだと云う。
「何かお伝えしたいことがあると言うので」
それを聞いて私は数年前のことを思い出した。
数年前−−長い間連絡を取っていなかった友人Nに、偶然にも街で遭った。
彼は昔から派手な遊びを好み、学生時代には高級なイタリア車を乗り回し、高そうな服を着て、キザな連中とつるんでいたりしていた。私とは住んでいる世界が違かったが、何故か性格的にはウマが合い、学食でご飯を食べたり、一緒にクラシックのコンサートを聞きにいったりしたことが度々あった。彼曰く「一緒にいると落着くのだ」そうだ。
金持ちの子息令嬢が通う大学だったので、彼もいいところの出なのだろうと思っていたが、別にそうではないらしかった。そうすると裏には何か秘密があるのだろうと思っていたのだが、彼はいつも「ナイショ」と教えてはくれなかった。結局は、彼の素性を知らなくてもとくに問題のない関係だったので、それ以上追跡することもなく、大学を出た後は二度ほど連絡を取ったっきりで、半ば忘れかけていた存在だった。
「悪魔の存在を信じるか?」
立ち話もなんだから、ということで私たちは喫茶店に入ったのだが、コーヒーが運ばれてきて、互いの近況や懐かしい話をしていると、不意にそんなことを言ったのだった。
私は、見たことがないから何ともわからない、と返したのだが、彼は真顔で「実はいるんだ」と言う。
「学生のときに、オレ、派手に遊んでいただろう。高いクルマに乗って、ブランドものの服を着て。アレは全部悪魔と取引をしたからなんだ。
或る日、古本屋で手に入れたラテン語の本に、『悪魔の喚び方』というのが書いてあって、面白そうだから試してみたんだ。魔法陣と言うのかな、六方星を書いて、周りに数字を書いて。ラテン語の呪文を唱えたんだ。すると、火などないところから、煙が出てきて声がしたんだ。そして、だんだんと身体が現れてきて−−耳の長い変な生き物だった。キリスト教の本なんかに出てくるあんなものとは少し違って、もっと魚とか両生類に近い、気味の悪さだった。
そして、ヤツが言ったんだ、『お前の願いことを、何でも叶えてやろう』と。
オレは、誰にも言ってなかったんだが、実家は貧しい家でね。正確には、没落した家で−−ジイさんが悪いオンナにつかまって、全部獲られてしまって−−まぁ、裕福とは正反対の家だった。だから、貧乏な生き方しか知らなかったというのもあるんだが、カネのある生活に憧れがあってね。悪魔と取引をしたのさ。
『オレの人生を半分やるから、カネのある人生にしてくれ』って。ヤツは変な笑い声を出して頷いたんだ、『わかった』と。そして、『お前の望むことを叶えてやろう。ただ、それはお前が真の幸せを望んだときに終わる。最も悲惨な形で』と言って消えたんだ。
消える前にオレの鳩尾の辺りを叩いていった。後でそこを見ると、掌のような形の、小さな痣ができていた。
それからさ、オマエが知っているオレの姿は。カネを使って、幸せを買うような人生を送って−−。
だけど、あれこれあって気付いたんだ。−−気付いたと言うか、カネで得られる人生に飽きたんだな。何でも手に入ってしまう人生に」
それから彼は正反対の人生を模索し始めたのだと云う。農場を買い取り、自給自足で働くことを愉しみ、自然に拠る困難も含めて生きる悦びを実感していたのだと云う。
「ウシや自然を相手に生きていくのは、なかなか大変だが面白いものだな。だけど、気付いたのさ、結局は−−その生活も悪魔との取引の結果なのだと。
何をしても失敗をすることはなくて、もう、カネを浪費する以外にない人生なんだ。オレの人生は」彼はそんなことを言って悲しげな目をしていた。

病院に行くと「余命幾ばくもないらしいのだが」とNは切り出した。
簡単に言えば、胆のうと肝臓の癌、ということだった。
胆のうが侵され、そこから肝臓に転移したのだそうだが、医者の表現によれば「掌がひっついたような形で、癌細胞が広がっている。手の施しようがないほど」だそうだ。
「医者は言ったんだ。あと、二ヶ月ほどの命だと。だけど、オレは今、四ヶ月ほど長く生きている。死のうと思っても死ねないんだ。自殺を試みたけれど、三度失敗した。
生きているのが嫌なのに、死ぬこともできないんだ。
真の幸せを望んだとき、と悪魔は言ったがオレには判らない。何が真の幸せだったのか。
あれもこれも苦労がないから実感など持ってなかったんだ。だから、心から幸せを感じたことなどないのだよ。今のオレにとって幸せが何か、と言われれば、もっと充実感のある人生だったな。
でなければ、安らかに眠りに就くことだ。今すぐに」
充実した人生の希求と惰性の末路ーー窶れきった彼の背後で、悪魔が笑う声がしたような気がした。
posted by flower at 15:04| Comment(0) | TrackBack(0) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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