2012年06月14日

朝露

「ねぇ、もう少しだけ」と女は言い、私の耳を噛んだ。
女が私の身体をまさぐりだす。
掌が喉を、項をまさぐり、顔を構成する部位を一つひとつ確認していく。
目を、耳を、鼻を、そして唇を。
唇を摘み、撫で、そして自身の唇で愛撫を始めた。
唾液と唇と舌が淫らな音を立てる。
「夏は嫌いよ。すぐに朝になっちゃうから」
女はそう言って、私の唇に熱い口づけを施した。
私の口内で女の舌が蛇のように蠢いている。
舌の根や歯の裏にまで潜り込み、撫でていく。そして、強く私の舌を吸う。
「でも、裸でいても寒くないのは好きかも。あなたもわたしも、裸のまま、ずっといられるから、あなたの身体をこうして感じていられる」
女はその唇で私の乳房を舐めだした。小さな私の乳首を悪戯するように。
左右にある乳首のうち、右を女の舌が、左を女の右手が、それぞれに挑発している。
上に乗った女の下腹部が私の腹部に触れ、生暖かさが伝わってきた。
私の目に枕元の時計が映った。午前6時になる10分前だった。
「冬ならまだ、真っ暗な時間よ。なのにもう今は、外は明るくなってきて」
カーテンのない私の部屋は朝の光に侵蝕されつつあった。
そして、その光は、私や女の身体をも覆い始めた。
女の白い肌がいっそう白くなっていく。
果実のような臀も、掌に収まりそうな女の胸も、細い腕も、長くしなやかな脚も太陽の光に染まり、夜の闇の中で蠢いた女の肉体とは違って見えた。
急激に私は欲情した。
女の身体を激しく求めたくなったのだ。
その乳房を、臀を、肌を、その身体にうっすらと漂う汗の匂いまでも。
加速しだした欲情に押され、最前女が私に施していた事を、今度は私が女に施し始めた。
女を下にすると、女の顔を構成する部位の一つひとつを丁寧に舐め、四肢のあちこちを刺激した。指の先で、舌で、歯で、できる限りの愛撫と挑発をした。
そして、それらの行為は女の身体の中心へと次第に向かっていき、脇の下から両の胸に移行すると、最も熱くて、敏感な場所へと向かった。
女の脚を広げると、朝露に濡れた芙蓉ように、女のそれは既に潤いに満ちているのがわかった。女の顔を見れば、瞳まで潤っていた。
「焦らさないで。お願い」
猫がねだるような女の声を無視して、私は女に丁寧に口づけを始めた。
もちろん子猫の方にである。軟体の生き物のように舌を這わせ、女の露を楽しんだ。
女の口から漏れていた声が、大きくなっていく。
そして、女の手が、私の肉体に催促しだした。
「もう、待てないの」
上体を起こした女がその口で私を潤し、そして、互いの肉体を交錯させた。
朝の光の中に存在する女の淫らな顔は、何とも云えないほど愛らしく思えた。
何度も口づけを交わし、上になり、下になり、互いの肉体を確認し合った。
しばらくして私たちはそれぞれに快楽の極みに達すると、朝の光の中で眠りに落ちていった。
先に眠りに落ちたのは女だったが、朝陽を浴びたその寝顔もまた愛らしいものであった。
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2012年06月12日

問い

理不尽に問いかけられる、と云う経験がおありだろうか。
まぁ、大人になれば毎日のように何かしら問題を突きつけられるが。

私が幼少の頃の話である。
夏の終わりに友人とカブト虫を捕まえに行った帰りに、不思議な家を見つけた。
不思議な、と云うとナンだが、ボロボロの家で、人が住んでいる気配が感じられない、廃屋だった。
車の往来がまったくない旧街道から少し離れたところで、鬱蒼とした杉や樫などの樹々に隠れるようにしてあったそれを、一緒にいた友人が見つけたのだ。
その歳頃の男子なら当然持ち合わせている(そして、厄介ごとばかりを引き起こす)好奇心から、私たちがその家屋を探検してみたくなったのも当然の成行きだった。
家の規模は大変大きかったように記憶しているが、もしかしたら幼かったのでそのように思い込んでいるだけかも知れない。
玄関の引戸を開ける、と立派な土間と黒々とした柱、梁−−威厳に満ちたモノトーンの空間が広がっていた。クラシックな空間の端々に、当時の私の田舎には不相応な文化の残骸が見られた。
友人とふたりであちこちの襖や引戸を開け、何があるのだろうかと、緊張と興奮とを感じながら探って行った。
幾つ目かの襖を開けた時である。異様な空間が広がった。
目がその空間を捉えた瞬間に、本能的に危険を感じたと云ったら良いだろうか。何か得体の知れない恐怖が存在しているのを感じたのだ。
十畳ほどの部屋だった。漆喰の壁、畳の床、そして、それらに描かれた不規則な模様。
アラベスクなど装飾的な模様ではなく、何かが這った後のような模様が部屋中に書込まれているのだ。襖に、窓に、床の間の掛け軸にまで、部屋中のあらゆるものがその模様の下敷きになっていた。
私たちは恐怖を抱きながらも、出しゃばる好奇心を抑えられず、脚を前へと進めて行った。
奇妙な模様−−顔を近づけてみると、果たしてそれは文字だった。手書きの文字が、書込まれていたのだ。部屋中に。そしてそれは、いずれも問い掛けだった。
「十年後のあなたは何をしていますか」「今日は何をして遊びましたか」
友人が声に出してそこに書かれているものを読み出した。
「あなたの名前は何ですか」「今日は何時に起きましたか」「駆けっこは速いですか」
最初目についたのは、初めて習う外国語の例文のような内容のものばかりだった。
子どもであった私たちは緊張の中で見つけた簡単な言葉に安堵し、お互いに向かいあって質問を始めた。「朝は何を食べましたか」「好きな食べ物は何ですか」
しかし、それは次第に不気味な感慨へと変わっていった。
「憎い人はいますか」「殺したいと思う人は誰ですか」「誰を呪っていますか」
内容は悪意を帯びたものになっていったのだ。
「先生は嫌いですか」「モノを盗んだ事はありますか」「学校を燃やせますか」
そして、悪意は、奇妙な渦を巻きだす。
「窓の外から覗いているのは誰でしょうか」
「そこには何人いますか」
「明日の午前3時には何が起きるでしょう」
夏の終わりの赤い陽が山の向こうに沈み、暗かった室内が、いっそう暗くなる。
発せられた言葉が空気を重たくした。
「あなたの隣に居るのは誰でしょう」
友人がこの質問をすると、私に向いていた友人の表情が曇ったのが判った。
言葉が出ず、引き攣ったような表情のまま、彼の視線が私の隣に注がれている。
私は恐る恐る視線を横へと移していく。顔は正面を向いたまま。
ゆっくりと、目だけを横へ横へと。
私の視線が捉える。蒼白い何かが、隣に、居る。
と、怖くなった私は友人の手を取って、一目散にその部屋を抜け出して、家を後にした。
外に出ると辺りはすっかり暗くなっていて、どこをどう走ったのか判らないが、どうにかこうにか普段見慣れた家の近くまで来ることができた。

その夜の事である。
件の友人は亡くなってしまった。死因は急性心不全だった。
彼の母親は「突然夜中に叫び声がして、心配になって息子の部屋へ行くと、泡を吹いたまま倒れていました。午前3時頃でした」と話していた。
翌日見た彼の顔は、何かに怯えたような表情だった。

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2012年06月11日

夏の記憶

或る夏の夜の記憶である。
不思議な記憶で、今でも実際のことだったのか、ただの夢なのかわからない。
しかし、ときおりその記憶がフラッシュバックし、私に何かを訴えようとする。
古い小説なら『過去からのメッセージ』とでも云うのだろうか。
自分以外の人間にとってはどうでもいい話だが、ここにそれを記しておこうと思う。

私はパパとママと海へ出かけた。パパがいつも乗っている青い車で。
パパはいつも通り優しかったが、今思えば少し寂しそうだったし、苛立っていたような気もする(もしかしたら時間が経過する中でそんなふうに思うようになっただけかも知れないが)。
ママは座席にはいなかった。いつもなら助手席に座っているのに。
ママがいない事について訊ねると「少し具合が悪いから後ろのトランクで休んでいるんだ」とパパは答えた。
車のラジオからはポップスが流れていた。
誰が歌っているのかは思い出せないが、近所のおねえちゃんが歌っている曲が多かった。
開けた窓からは心地よい風が入ってきて私の髪をなびかせた。
「ママなら大丈夫だ。薬を飲んで眠っているんだ」
「さっきケンカをしたときにケガをして、その時にケチャップがついちゃってね。だからパパもママも服が汚れているんだ」
「海についたら泳ごう。ママも一緒に泳ぐから」
パパは優しくそう語りかけ、何度も煙草に火を点けて、美味しくなさそうに吸った。
パパの口からはエンジェルの頭の上に浮かぶ輪っかのような煙が吐き出された。
私はママの顔が見たくなって、パパに何度も見たいと伝えた。
パパはその都度、私にダメだと言った。
「ママは今、そっとしておいて欲しいんだ」
「海に着いたら、遊んでくれるよ」
外の景色は市街地を抜けて、寂しい風景だった。
「どうして海に行くの?」
「ママが海で泳ぎたいって言ったからさ」
家を出て、一時間ほどが経った頃、海に着いた。
夜の海は人気がなくて、ザワザワと押し寄せる波の音が耳の中に入り込んで、コルジ器の辺りでリフレインした。
パパはママをトランクから下ろすと、お姫様抱っこをして海に入っていった。
ママはぐっすりと眠ったままだった。寝息は波の音にかき消されてわからなかった。
「ママは海が好きなんだ。ここで夜の星が見たいって言ってたんだ」
夜の闇が水平線を侵蝕している。
その中に浮かぶ星々。
ザワザワザワ。ザワザワザワ。ザワザワザワ。ザワザワザワ。ザワザワザワ。
波の音が耳の奥でリフレインし、記憶を侵蝕していく。
ザワザワザワ。ザワザワザワ。ザワザワザワ。ザワザワザワ。
記憶はいつもそこで途切れる。

パパはそれからしばらくしていなくなってしまった。
海水浴の最中に溺れて死んでしまったのだ。
ママは今でも居るが、私との間には不思議な違和感が横たわっている。
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2012年06月09日

ユートピア

「宇宙まで何マイル? 世界の果てってどこなんだい?」
「宇宙なんてすぐそこさ。ゆうべ見た夢の中さ」

「金の重さは理不尽過ぎるよ」
「それこそが、相対性理論だろう」

「ユートピアを思いついたんだ、この世界の現実をすべて消しちまえばいいんだ」
「それならば、自分が消えちまうのが手っ取り早い」

「世の中で、もっとも天国に近い存在は酔っ払いだぜ」

「人生がうまくいった試しなどないよ」
「地球の遠心力に振り回されているんじゃないのか」

「アンドロメダよ、我に希望を」
「希望なんてものは、天の川で流れちまった」

「ジャズも、ブルースも、ロックも、クラシックもあらゆる音楽は殺されてしまった。
容疑者は資本主義という大悪党の金と名誉。そして、ちっぽけなプライドだ」

「現代人は、夢の中まで蝕まれてしまった悲しき生き物さ」

「死んだ人の魂が夜空の星になるならば、金星の近くに居るのは政治家だろう」
「だったら、ブラックホールの傍に居るのは、貧乏人だね」

「凡人てのは、形骸化した現実ばかりを取り出したがる」

「この世界の太陽は蝕まれたままではないのだろうか」

世界から殴られ続けた結果、私はマゾヒストになってしまった。
世界よ、もっと私を殴ってくれ。
気が狂うほどに。
明日を見失うほどに。
希望を喪失するほどに。
夢などもう見ることがないように。
大銀河が暗黒に塗り込められてしまうほどに。

「地球の軸が傾いてしまったばっかりに、この世界は正しい循環を失ってしまった」
「最初から正しい循環などなかったんだ。すべては予め決められた、神の御心さ」

「ロマンスを日常に持ち込むなんてのは簡単さ。すべてに文学性をくっつけちまえばいいんだ。デュシャンのサインの如く、あらゆるものにさ。
本には悲しき思い出を、レコードには懐かしい記録を。テーブルには温かい食事の、ベッドには横溢する生命の記憶を、そんなぐあいに」

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2012年06月02日

性座

「あのときのあなたは、もっと熱い口づけでしたわ」と女は言い、
「情熱なんてものは天気のように移ろいやすいんだ」と男は言う。
ふたりは赤い唇を重ね、幸福な刹那を刻んでいく。
スタッカートのような、唇が短い接触を繰り返す。
「あのときのお前は、もっと淫らな口づけだった」と男は言い、
「でしたら、もっと淫らな気持ちにして欲しいわ」と女は言う。
男の唇の間隙から舌が這い出し、女の舌に絡みつく。
男の両手が女の頭部を押さえ、舌で口内を蹂躙する。
「もっと、激しい口づけが欲しいの」と女は言う。
「だったら、もっと淫らな口づけを」と男は言う。
女の指が、男の項を、耳孔を、耳朶を挑発する。
男の口づけがその行為に触発され、激しくなる。
「とても淫らな顔だ」と男が言えば、
「もっと淫らにして」と女が訴える。
男の手が女の乳房の上に置かれる。弾力を確かめるように、幾度も乳房を揉む。
左右の乳房を揉みしだき、硬くなった乳首を摘む。悦びが滲んだ息が、漏れる。
「もっと気持ちよくして欲しいの」と女が言えば、
「だったら、どうして欲しいんだ」と男が訊ねる。
女の手が、男の手を取り上げ、自身の敏感な場所へと導く。
男の手は、ひとつひとつを確かめ、女の呼吸を乱していく。
「ここは、どう」と硬さを蓄えた突起物に触れながら男が問えば、
「とてもいいわ」と愉悦の色に染まった声を漏らして女が答える。
男は、女の肉体を狂わせるように、赤紫色した肉の芽を舌先で転がす。
女は、快感に肉体を振るわせながら、男の頭を自身の秘所へ押付ける。
「とても、気持ちがいいわ」と女が呟き、
「もっと、させてあげるよ」と男が囁く。
男の二本の指が体液に潤った前門を潜り、ザラザラとした内壁に接する。
その感触を楽しむように、初めはゆっくりと動き、次第に加速していく。
「とても濡れているよ」と男が囁き、
「もっと激しく愛して」と女が喘ぐ。
女は男の肉茎を握り、自身の唇へ導く。
果物のような赤い膨らみを、口にする。
「イケないほど硬くなってるわ」と女が言い、
「おまえのはとても濡れている」と男が言う。
ベッドの上に横たわる女。それに正対する男。肉体が重なる。
硬直した肉茎が、体液が溢れる肉の裂け目に飲込まれていく。
「卑猥な顔だ」と男が誹れば、
「強く突いて」と女がねだる。
男の腕が女を強く抱きしめながら、愛に満ちた動きに力を込める。
女の口からは声にならない悦びがこぼれ、男の腕に歯の形を刻む。
「とても幸せよ」と女は囁き、
「幸福な時間だ」と男は頷く。

夏の夜の星座が消えるまで、ふたりは肌を重ね合い、愛の時間を歴史に刻んでいった。
posted by flower at 16:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 淫詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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