2013年10月19日

殺しの手帖

1 路地
道路に落書きをする男。
そこに書かれる文字。
 人生を切り売りする時給800円
 歩けども黒い道止まれども黒い道
 犬でさえ棒に当たり私は案山子
 山の向こうに幻の祖国
 猫ばかりに視線が注ぐ橋の下
 人は落ちてどこへ行く蒼い園か
 死ね死ね死ねと云われるでもなく
 カラスにも帰る家
 電車から下りても宛てなどなけれ
 ハッパをくれハッパをくれ世界から消える為に


2 家
ハッパを吸っている女。
インターホンが鳴っているが無視している。
と、女の足下に並べられたカラフルな服。
 女:私は今、神と対話しているのだ。
   神は仰っている。
   『世界に革命を起こせ』と。
   『世界に革命の火を灯せ』と。


3 河原
黙々と石を積み上げる男女。
 男:積上げる石もなく。
 女:積上げられるは虚しき人生。
石には細かい履歴書のようなものが書かれている。
 男:私は未来に嘘を吐く。
 女:私は嘘の道を歩む。


4 街角
ギターを弾く男。
 声:この街にはロバート・ジョンソンが居る。
   歌うのはもちろんブルースだ。
   魂に空っ風。



5 家
小銭を並べる女。
 女:母親は金が一番だといつも云った。
   公務員になりなさいと。
   私は頑張ってなった。だけど、人生は最悪だ。
   金は貯まれども、私は小人。


6 アパートの階段
上がったり下りたりしている女。
 女:この中に幸せはありますか。
   この中に幸せはありますか。


7 部屋の中
縛られて倒れた男。
 声:縛られると云う行為は時として快楽である。
   人生を考えるよりも、箱の中に踞る方がどんなにか幸せだ。


8 公衆電話
 声:ピンクの電話も、緑の電話もなくなった。
   あるのは灰色の、デジタルの電話だ。
   会話までもがデジタル化されて。
   あなたに届くは、偽の声。


9 喫茶店の窓辺
コーヒーポットに溜まっていくコーヒー。
緑色の紙を挟んで退屈そうな男と女。
 男:きみのことが嫌いになったんぢゃないんだ。
   二人の間に黒い時間が堆積しただけなんだ。
 女:ウソツキ。
 男:僕が嘘を吐いたんぢゃない。
   世界が嘘ばっかりだったってそれだけさ。


10 洗面所
鏡に向ってピストルを構えている男。
 男:手を上げろ。
   今からオレはたったふたつの簡単な質問をする。
   イエスかノーで答えろ。
   それ以外なら撃つ。
   ひとつ、お前は生きてるのか。
   ふたつ、人生は愉しいのか。


11 朝の街
ベンチに腰掛けビールを飲んでいる男。
その隣で花びらを千切っている女。
 女:ひとつ千切っては母の為。
   ふたつ千切っては父の為。
   みっつ千切っては祖母の為。
   よっつ千切っては祖父の為。
   いつつ千切っては姉の為。
   むっつ千切っては兄の為。
   ななつ千切っては彼の為。
   やっつ千切っては誰の為。
   ここのつ千切って誰の為。
   千切れるばかりで私は居ない。
   朝日が昇って月が消え、死んだ私の影が伸び


12 公園
野良猫。


13 茶の間
正座してテレビを観ている男。
ブラウン管には砂嵐。


14 駅前
携帯電話で話している人の隣で糸電話で話す二人。
 声:携帯電話と糸電話。
   伝える言葉の重みはどちらが重いのだろうか。
   温もりはどちらが伝わるのだろうか。


15 街
街角に花を並べていく女。
 女:私はこの世界に火を灯す。
   花は起爆剤で、心の中に火を灯すのだ。


16 野原
倒れた男。
 男:酒をくれ、酒をくれ。
   今日を忘れる酒をくれ。
   明日を見させる酒をくれ。


17 回想
キッチンのドアを開けると包丁を握りしめ見つめる女。
 声:或る日見た母の姿は、私への呪いへと変わった。


18 川沿いの道
聖書を朗読する男。


19 台所
米を磨ぎ続ける女。
 女:磨いでも磨いでも白く濁る。
   トイデモトイデモ、トイデモ、シロクニゴルノ。
   佐々木サンが、私のことイヤラシい目で見るの。
   あぁ、イヤだ。
   こんな白いのはどっかに行っちまえば良いのに。


20 細い路地
道路に『キャラメル食べて、300メートル』の文字。
空き缶が転がっていく。


21 部屋
丼に入ったラーメンを啜る男。
 男:飯を食うのは何の為。明日が来るのは誰の為。
    お前ぇには、開く夢などあるのかい。


22 インクライン
線路の枕木の上を歩く男。
 声:昔は列車が走ったこの場所も、今では寒い風ばかり。
   温もりを求めるならどこへ行けば良いですか。
   愉快に笑うテレビの中かい。
   キレイに輝くネオン街かい。
   灯りの点いたリビングかい。
   温もりはどこにあるんだい。教えてくれよ。
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人類は、世界によって殺められ、と云えば虚しき神無月。

posted by flower at 13:52| Comment(0) | TrackBack(0) | etc | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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