2013年09月08日

性癖

自分ではない誰かになってみたい、生きていれば、そう思うこともあるのだろう。
ただ、その女は、その願望が極めて強いひとだった。
或るときは、ネオン街の夜の蝶に。或るときは、異国の踊り子に。また或るときは、有能な社長秘書になった。
派手な化粧をして(或るときは控えめに)、艶かしい服を着て(或るときは地味な装いで)、その職業を演じた。
スノウビッシュに穏やかな言葉を並べるときも、また、その逆にヒステリックに感情が滲み出たようなときもあった。
そして、普段の控えめな彼女とは思えない存在に豹変した。
彼女曰く、「こういう状況の方が、燃え上がるじゃない」とのこと。
そして、「自分じゃない誰かの方が、自分の裡に潜む自分が現れるの」と。
女は、仮令どんな地味な装いであっても、ベッドの上では大胆に振る舞った。
口に含んだブランデーを口移しで寄越したり、私の着衣を手を使わずに脱がしたりした(どのような手法かはご想像に任せるが、とてもセクシーな行為だった)。

或る夜のことである。その日はずっと雨の音が街を覆っていた。
私たちは町外れのモーテルで、週末のひとときを過ごしていた。
そのときの彼女は娼婦のような恰好だった。
手の指には真っ赤なマニキュア。唇にも真っ赤な口紅。網タイツから見える足の指にも真っ赤な色が見えた。そして、マスカラとシャドーでアイラインを強調したメイク。
紫のブラウスに、紫のスカート。白く細い首には、銀色のネックレスが掛けられ、その細さに更なる魅力を与えていた。
女は言う「今晩は、ご指名下さり、ありがとうございます」と。
また、「今宵は、精一杯のおもてなしをさせていただきます」と。
女は艶やかな目で私を見つめたまま、顔を近づけ、軽く唇を重ねた。
柔らかい唇が三度、四度と接触し、不意に軽く唇を噛まれ、舌が挿し込まれた。
それに呼応して、女の指が私の顔を撫でる。
二匹の蛇が絡み合うように、私たちの身体が縺れ合う。
互いの指が、互いの肌の上を這い、あらゆる場所を刺激する。
耳孔、項、首、胸の膨らみ、太腿、臀部−−。
そして私の指が、女の最も敏感な部分に到達したときには、雨に濡れたように、潤いに充ちていた。
私は訊ねる、「いつの間に、こんなに濡らしたんだい」と。
女は答える、「あなたの唇に触れたときからよ」と。
そして、「あなただって濡れてるわ」と、私のそれを弄びながら濃密な口づけをした。
柔らかい唇と舌先による甘美な感触が私を包み込み、全身のどの部分への愛撫よりも淫らな気持ちへ導いていった。
女は言う、「ちょうだい」と、淫らな表情で。
女は仰臥した私の上に跨がり、自身の濡れた花びらで、先ほど口づけしていた部位を包み込んだ。
言葉にならない声が漏れた。

窓の外では雨の音がしていた。そして、この部屋の中には、雨に濡れたような、私たち二人の結ばれた情交が、ぴちゃぴちゃと響いていた。
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posted by flower at 11:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 淫詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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