2014年03月10日

どうでも好い話、である。
数年前引越しをした先で、近所への挨拶を兼ねて飲み屋を回っていたのだが、そのときに聞いた話だ。
Nと云う一風変わった寿司屋があるのだが、そこの常連さんで数週間前に隣の学区に住まいを移された方がいたと云う。
「出るんですって、これが」町の特色や店について話している中で、Nの女店主は両手をだらりと前に突き出して、そう切り出した。
「ユーレイ、ですか」一応の確認をすると店主は大きく頷く。
そして、眉を顰めるようにして、「何でもですね−−」と話し始めたのだ。
寿司屋の近くにM通りと云うのがあり、そこには洋書店や癖のある古書店、見るからに怪しげな喫茶店や北欧雑貨の店なんかがあったりして、週末などは若い人たちで賑わっているのだが、そんな通りの脇にひっそりとその物件はあるのだと云う。
「アベックで住んでいたんですけど」
そこに住んで程なくして、週の半分ほど、深夜の決まった時間になると彼女が男性に向かって説教をするようになったのだと云う。
「元々は、彼女の仕事の都合でこっちの方に移って来たこともあって、仕事のストレスかな、とか思っていたんですって。だけど、職場の話を聞いても、とくにストレスはないようで」寧ろ、充実していたそうだ。
しかし、女性は自分がそんなことをしていることに自覚はなかったのだと云う。
夢遊病と思い、専門的な知識のある人に相談しても、どうも違うらしい。
「あと、丁寧に掃除機をかけても、夜になると長い髪があちこちに落ちていることが頻繁にあったり」
「台所が通路に面していて、調理中ガラス越しに人が通った気配があるのに、その気配はどの部屋にも入らずに消えてしまったり」と云うことがあったという。
それ以外にも、鏡に気配を感じたり、洗ったばかりのシャツに赤い口紅が付いていたり。
「女性の気配がしたんですって」
そのアベックはそんな状況でも2年ほど住んで移ったそうだが、引越しをすると彼女の説教はなくなり、髪や口紅の怪もなくなったと云う。
「別の人から聞いたんですけど、最近そこの部屋を紹介する業者が、『ここで良いんですか』って何度も確認するらしいんですよ」
そんな物件だからか、敷礼金がなくて、家賃も安く、結構見に来る人が多いそうだ。
「家賃が安くても、気の休まらないのは嫌ですね」女主人はそう云うと顰めた眉をほぐすように戯けた顔をして、焼酎の入ったグラスに口をつけた。

先日のことである。
そのアパートが老朽化で取り壊されたそうだ。
知人がその解体をしたのだが、2階の5号室の壁から大量の長い髪が出てきたと云う。
それと、男女の関係で悩む女性が綴った手記とが。
感情が憑依した部屋だった、とでも云うのだろうか。

部屋を選ぶ際にはくれぐれもご注意を。
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posted by flower at 14:07| Comment(0) | TrackBack(0) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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