2014年03月11日

性猫

寝返りを打つと、目の前に女の顔があることに気付いた。
正確には、居ることを思い出した、と云うのだろう。
女は猫に似た顔だった。
丸い輪郭に、大きな目、稜線の綺麗な鼻。
どこから来たのか、名前も、素性も話さない、そんな謎めいたところも猫のようだった。
私は寝息を漏らす女の頬を指でなぞった。ヒゲを描くように。右の頬と、左の頬に。
女はくすぐったそうに、僅かに動く。
その動きの愛らしさに、私はもう一度指で顔をなぞった。
と、女の呼吸が一瞬止まり、瞼が開いた。
闇の中で光る猫の目のように、黒い瞳が私を捉える。
そして、微笑む。
「まだ、朝には早いわ」と云って。
私は女の頬をゆっくり撫で、髪を撫でる。
長毛種の猫のように、滑らかな手触りだった。
女は気持ちよさそうに、息を漏らした。小さく赤い唇が艶かしかった。
私はその息に導かれるようにして、掌を彼女の肉体の一つひとつに這わせた。
項へ、耳孔へ、喉へ。そして、腕を、胸を、脚を。
漏れる息は肉体を下がっていくにつれ増えていった。
そして、私の掌は、彼女の臀部をなぞり、下腹部を包む。
と、女は身体を微かに振るわせて、か細い声で「ダメよ」と囁いた。
しかし、その言葉に反するように、女の表情は艶かしさを増している。
そして、猫が喉を撫でられるほどに歓喜の音を鳴らすように、女もまた、撫でられるほどに歓喜の声と音を漏らした。
「ダメって云っているのに」再び呟いて、含羞の表情を浮かべた。
私は、その愛らしい言葉を並べる女の唇が欲しくなった。
「ダメって云っているのに」
私が彼女の唇に唇を重ねると、女はそう言いながら、私の顔へ手を伸ばし、私がしたよりも丁寧に撫で始めた。仔猫が愛撫する手を丁寧に舐めるように。
そして、その手は、次第に私の肉体を下がっていった。
頬を、喉を、胸を、腹部を愛撫し、下腹部に達する。
「ダメ、なんじゃないの」
私が悪戯っぽく問い掛けると、女は唇を唇で塞いで「意地悪ね」と笑った。
そして、何度も唇を塞いだ。
私たちは、暗がりの中で互いを弄り、何度も身体を重ねた。
猫がじゃれ合うよりも激しく、肢体を押付けて。
肉体が暗闇に溶けそうなほどに。

それから暫くした新月の夜、女は居なくなっていた。
「恋の季節は旅がしたくなるの」女が云っていた言葉を思い出した。
街には沈丁花が香る頃のことだった。
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posted by flower at 15:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 淫詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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