2014年08月18日

思い出

「マスターの夏の思い出って何ですか?」とバイトの女の子、ファッション雑誌のページをめくりながら。
「怖い思い出と、恥ずかしい思い出と、悔しい思い出があるよ。どれが聞きたい?」とマスター、新聞に目を落としながら。
お盆明けの昼下がり、喫茶店の店内には人気がなく、スピーカーからはゆったりしたボサノバが流れている。
「相変わらずネタが多いですね」と女の子。「全部聞いてみたいですけど」
マスター、新聞から顔を上げて、女の子の方を見る。そして、煙草を取り出し、火を点けてくわえる。
「まず怖い話は、学生の頃に夏休みに自転車でフラッと旅をしたんだけど。そのときに泊まった宿で、夜中に隣の部屋から女の人が話す声がしてきて。独り言のようなんだけどヘンな様子でね。まぁ、世の中にはいろいろな人がいるからと、大して気にもせずに寝たんだけど、次の朝の食事のときに、宿の人に『隣にもお客さんが居たんですね』って聞いたら、『いません』って怪訝そうな顔で言われてね。夢でも見たのかなって思ったんだけど−−。しばらくしたら、新聞にそこの記事が載ってて、『屋根裏から女性の白骨死体見つかる』って内容で。どういう経緯か分からないけど、あれはその声だったのかって」
「その死体は何だったんですかね?」女の子、眉を顰めた表情で。
「詳しくは分からないけど、中古物件で買った家を宿にしてたみたいで、その前の所有者を調べてるとか、そんなのが載ってたな。まぁ、結局は謎だけど」
マスター、煙草をプカプカやって。
「で、恥ずかしい話は、中学のときに、テレビでノーパン健康法って云うのを見て、夏に実践してみたんだよ。そしたら朝になったらパンツを履いていてね。寝惚けて履いたのかなって思ってたんだけど、朝ご飯のときに『あんな寝方してたら、お腹冷えるよ』って、母親に」
女の子の鼻から息が漏れる。「それは確かに恥ずかしいですね」
「生きてるといろいろあるよ」マスター、短くなった煙草を灰皿に押し潰して、新たな一本を取り出す。そして、指の先でくるくる回す。
「で、悔しい思い出って云うのが、店を始めたくらいのときに、お客さんで国際線のスチュワーデスがいたんだけど、その人に海に誘われてね。『友だちも誘って、一泊二日で』って。だけど夏の海って暑いし、人が多いでしょ? それで思わず断ってしまったんだよ。今思うと、あれは我が人生における唯一にして最大のイベントだったんだなと。全てを放り捨ててでも行くべきだったんだと毎年後悔するんだよ」
マスター、くるくる回していた煙草に火を点け、大きく吸い込む。
「何と云うか、残念な人生ですね。ある意味でマスターの人生を象徴しているような」
「あれが別荘とか、湖だったら喜んで行ったんだけど。海って云うのがね」
「たぶん、そう云う、どこか高飛車なところが人生に停滞感を生み出しているんじゃないですか」女の子、苦笑いとともに呆れたような息を漏らす。
マスター、煙をこぼすように吐きながら頷く。「亜沙美さんは、夏の思い出は?」
「何年か前なんですけど。すごい暑い日にスーパーに行ったら、アイスのセールをやってて。思わず、レディボーデンの大きなヤツを三つも買ってしまったんですよ。で、下宿で涼みながら食べてたら、気になる男の子から『今夜の花火大会観に行かない?』って連絡がきて。喜んで行ったんですよ、気合いを入れてメイクして、浴衣来て。もしかしたら今夜結ばれるかもって期待してたんですけど、途中からモーレツな腹痛に襲われて。脂汗を流しながらトイレへ駆け込むと云う醜態を−−。結局、何も楽しめず、ましてアバンチュールもなく−−。帰りに薬局で正露丸を買ってもらうと云う−−」
「何とも、オソマツな−−」
微妙な空気の中、二人それぞれに時計を見る。針は午後二時を指そうとしている。
「生きているといろいろあるね」と云うマスターの声に、女の子「そうですね」と頷き、店内に時計の鐘が二つ鳴り響く。窓の外では蝉の啼く声が大きくなり−−。


posted by flower at 19:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年12月17日

足音

師走の昼下がり。客のいない店内にはゆっくりめのジャズが流れている。
と、新聞を広げて煙草を吸っているマスターが大きなクシャミをひとつ。
「風邪だなぁ」マスターが洟を啜る。
「珍しいですね。風邪をひかれるなんて」と、バイトの女の子が珍しげな視線を送る。
「何かね、昨日変な体験をしてね。それで朝飽きたら、身体が重くなってて。頭も重いし、目眩もしてね」首を傾げながら話すマスター。
それを見て、女の子がヒニクそうな笑みを浮かべる。
「飲んで、酔っ払って、ラーメン食べて、裸で寝て、とかじゃないんですか。それで、二日酔いと、肥満とで、とか。原因は不摂生じゃないかと」
マスター、不摂生は当たってるかもね、と苦笑まじりで返す。
「でもね、寝てるときにヘンな体験をしたんだよ。風邪が歩いてくる足音って言うか、お酒は少し飲んでたけど、今回はラーメンも食べてないし、裸で寝てもいないし。
とりあえず日付が変わる前くらいには床に就いたんだよ。たまには早く寝よって思って。
で寝たんだけど、何故か不意に夜中に目が醒めて。
まだ暗かったんだけど、もしかしたら朝方なのかなとか思って、一応時刻を確認したんだけど、時計はまだ午前2時ちょうどでね。
朝まで時間あるし、寝ようって思って眼を瞑ったんだけど」
と、女の子、「それって怖い話ですか」と。眉を顰めながら。
それに対して、マスター「どうだろう、微妙に怖いのかな。まぁ、大した話じゃないんだけど。とりあえず、眼を瞑ったんだよ」と、淡々と続きを話し始める。
「眼を瞑ってちょっとしたら、玄関の方で、コトンて何かが落ちる音がしたんだよ。一瞬、猫が何か落としたのかな、って思ったんだけど。他に音がしなくてね。猫が歩いてるような気配もないし。まぁいいやって思って寝ようと思ったら、暫くして、またコトンて音がして。今度はさっきより近いところで−−。
で、何だろうって考えてたら、また、コトンて。もっと近い場所で。
何かが近づいてるのかなって思っているうちに、部屋のすぐ傍で、コトン、て。
あっ、近いって思っているうちに、今度は部屋の隅で鳴って。何だろうって視線を移そうかと思っているうちに、今度は枕元で、コトン、て。
さすがに怖くなって目を閉じたら、次の瞬間、身体にドスン、て衝撃がきて、意識を失ったんだよ。で、朝目を醒ましたら、身体が重くなってて、風邪をひいていたっていう。
たぶん、あれは風邪の足音なのかなって。もしくは疫病神」
マスター、もう一度大きなクシャミをして、洟を啜る。
女の子、「マスターの生活って不思議な出来事多いですよね」眉を顰めたまま。
マスター、「そうかなぁ、まぁ、生きているといろいろあるからね」と淡々と煙草をくゆらす。
「そういえば、最近私もヘンな出来事に遭遇しましたよ。
この前、実家に電話をしようと思ったんですが、携帯電話のバッテリーが切れちゃって、公衆電話からかけようとしたんです。で、見つけたんですが、公衆電話って十円玉か百円玉しか使えないんですよね。だけど、財布の中には五十円玉しかなくて。
どうにかならないかなって、思っていたら、公衆電話の隣がバス停で、ちょうど、バス待ちの男性がいて。両替をお願いしたんです。五十円玉2枚を百円にしていただけませんかって。
そしたら、百円じゃ足りないでしょうって、二百円くれたんですよ。
で、その日って云うのが私の誕生日で、これは神様からの贈り物なんだと」
その話にマスター、笑い声を漏らす。
「それは、神様からの贈り物と云うより、亜沙美さんのなせる技と云うか。
よほど何か、悲壮感とか、哀愁とかあったんじゃない」
「失礼ですね。あれは神様の、私の日ごろの行いへの労いなんですよ」と頬を膨らます。
マスター、苦笑しながら「ちなみに、その百円て結局何に使ったの?」と。
女の子、恥ずかしそうに「コンビニで、肉まんを」と恥ずかしそうに。
ジャズの音楽を消すように、マスターの笑い声が響いて。
窓の外では、小雪が舞って。師走の時間が過ぎていく。
posted by flower at 13:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年08月17日

宝くじ

マスター、ご機嫌そうに口笛を吹きながら店内に入ってくる。
それを見て、バイトの女の子「暑さでおかしくなったんですか?」と。
マスター、軽く笑って「ちょっといいことがあってね」と、煙草を取り出してくわえる。
女の子、「奇遇ですね。私もいいことがあったんですよ」と、グラスを磨きながら。
「亜沙美さんのは、食べもの? 誰かに焼肉に誘われたとか」煙草に火を点けて、吐く。
「違いますよ。食べものは当たってますけど、誘われてはいないです」
マスター、唸り声を上げながら「うなぎ、か、お寿司?」
「うなぎもお寿司も焼肉も好きですけど、私、そんなにこってり派じゃないですから。もっと、素朴で、オシャレな食べものです」女の子の頬が、少し膨らむ。
「メロン?」眼を細めて、首を傾げながら。
「残念でした。桃、です」
「あぁ、そう言えば、前にそんなこと言ってたね。桃、ね。田舎の」マスター、頷きながら。
「そうなんですよ。待ち遠しかったんですけど、田舎からようやく届いて、私的にはこれで夏本番です」女の子、息巻くようにして。
その様子を笑いながら、マスター、「もう、お盆過ぎたら、夏も終わりだよ」と。
ちょっとうんざりした様子で、「まぁ、いいんです。夏は短い方が」呟くように。
「ところで、マスターのいいことって何だったんですか?」
「宝くじが当たってね」とマスター、嬉しそうな表情を浮かべる。
女の子も、一瞬嬉しそうな表情を浮かべる。
「300円てオチじゃないですよね? いくらですか? 1000万円とか?」
「亜沙美さん、言っておくけど、オレ、そこまでくじ運ないから」若干の苦笑を浮かべながら。
「3000円。一応、3枚買ってだから、効率的にはいいよね」
「それでもいいですね。お寿司かうなぎ食べましょうよ」
「回ってるお寿司ならご馳走できるかな。うなぎは赤字になるからダメだけど」
「でも、珍しいですね。夏場は運気が下がるっていつも言ってたのに」
頷きながら、マスター、気持ち良さそうに煙草の煙を大きく吐き出す。
「まぁ、たまにはこんなこともあるんじゃない。
というかね、今回のは、ちょっと当たるかなって思ったんだよね。
この前、飲みに行ったときに、直前に古本屋で面白そうな本を買ったの。100円で。
で、飲み屋に行ったら、気前よく振る舞ってくれる御仁がいてね。お礼に、その本を上げたんだよ。そしたら、その本が気に入った、って2000円寄越してね。
悪いと思ったから、返そうとしたんだけど受け取ってくれなくて。それで、まぁ、せっかくだから半分は飲み代に回して、半分で宝くじを買ってみたんだよ。
何となく、こういうときって、いいことが続いたりするからね。
で、宝くじを買ったら、実際に当たったていう」
女の子、「わらしべ長者ですね」と感心しながら。
「そうだね、100円が3000円だからね。で、次はこれで馬券でも買ってみようかなとちょっと思ってるんだけど」
と、嬉しそうな表情を浮かべているマスターに対し、女の子の表情が曇る。
「たぶん、今までの展開でいくとそろそろ潮時なんじゃないですか。競馬は、大損しますよ。競輪とか、競艇とかも」
「かもね。じゃぁ、亜沙美さんは何に投資したらいいと思う?」
「もちろん、私ですよ。高いものを戴くほどに、貢献できるかと。回らないお寿司とか、高級焼肉とか」
「思いっきり赤字だね」と、マスターが失笑して、時計の鐘が鳴って。
昼下がりの窓の外には大きな入道雲が沸き上って。

posted by flower at 20:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月06日

かたつむり

昼下がりの店内、ラジオからボサノバが流れている。
それに合わせるかのように鼻ずさみながらバイトの女の子が窓ガラスを磨いている。
と、不意に手を止めて、ガラスをまじまじと見つめる。
「亜沙美さん、何かあった?」
マスター、グラスを磨いていた手を止めて、女の子の背中に声をかける。
「カタツムリが、ガラスの向こう側に」女の子、単語を並べるように返答する。
「まぁ、梅雨だからね。にしても、気持ち悪くない?」マスター、苦笑を浮かべて。
「気持ち悪いんですけど、こんな風にしてみたことがなかったので、ちょっと見入ってしまいました」女の子が、少しだけ恥ずかしそうに笑いながら振り返る。
「亜沙美さんらしいね」マスター、煙草に火を点けて、少し呆れたように。
と、何かを思い出して笑う。
「そう言えば、昔付合ってた人にナメクジが苦手だっていう人がいてね。もう、見ただけで発狂しそうになるんだけど。そんな人が、ナメクジと風呂場で遭遇してね。
キャーって叫ぶから、何だろうって思って慌てて行ってみたら、全裸の彼女がお風呂場の隅っこで怯えてて。指さす方を見ると大きなナメクジが居て。
でさ、なぜかオレ、そのときにケチャップ持ってたんだよ。何でだろう。
まぁ、それを彼女が見つけて。ケチャップをオレから取り上げて。
で、ナメクジにグジュってかけて。
凄まじい光景だったよ」
女の子、引き攣ったような笑みを浮かべながら「セイサンな光景ですね」と。
マスター、頷きながら、白いケムリを吐く。
「これまでの人生で三番目くらいに凄まじい光景だったね。血のような、真っ赤な液体の中でのたうってるんだよ、ナメクジが。サスペンスドラマの被害者みたいに」
マスター、その様子を自身の肉体で表現する。
「でも、何でケチャップ持ってたんですか?」女の子、首を傾げながら。
マスターも首を傾げて。
「オムライスでも作ってたのかな。それ以外に使うことはないからね。
オムライスの上に文字を書こうとしてたとか。エル、オー、ブイ、イーとか」
カウンターに指で文字を書きながら。
「それも、ある意味、セイサンですよね」女の子が笑う。苦笑を浮かべるマスター。
「亜沙美さんもやったことあるの? ケチャップ文字?」
「二回ぐらい。付合ったばかりの男の子に、人間だものって書いたオムライスを出したら、思いっきり引かれましたよ。失敗したオムライスをフォローしたつもりだったんですけど」
「なかなかシュールだね」マスターの鼻からケムリが漏れる。
「ちなみに、これまでの人生で体験した凄まじい光景の一番と二番は何ですか?」
「二番はケンカをしたときの相方の怒りっぷり。平和な都市が空爆で壊されていくような暴れっぷりで、部屋がメチャメチャだったからね。まぁ、原因はこちらなんだけど」
「じゃぁ一番は?」
「凄まじいというか、ある意味ショッキングだったんだけど。
居眠りをしているときの、亜沙美さんの寝顔。女子という存在に初めて疑いを抱いたからね。ヨダレが口の端から滴る光景に」マスターの人差し指が口の端を示している。
「まぁ、美人も人間ですもの」女の子、そう言って軽やかに笑って。
窓の外では、紫陽花色の風が吹いて、風鈴を揺らして逃げて。
posted by flower at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月18日

カノン

店内には客はおらず、スピーカーからはバッハベルのカノンが流れている。
マスター、ぼんやりと窓の外を眺めている。
「どうしたんですか?」とバイトの女の子、心配そうに。コーヒーカップを手に。
ちょっとね、とマスター、呟くように言って、ため息をひとつ。
「昨日、師匠みたいな人が亡くなってね。師匠っていうとヘンなんだけど。友だちでもないし、先輩でもないんだよね。具体的に何かを教わったわけでもないから、師匠っていうのもヘンでね。ただ、お世話になった、というだけでもないし。父親のようであり、おじいちゃんのようでもあり、友だちのようでもありっていう。ヘンな関係の人だね」
女の子がコーヒーを啜りながら頷く。
「何も教わってないこともないんだけど。教わったのは、どれもどうでも良いことばっかりでね。でも、知ってたら世界が愉しくなるっていう。前にも言ったけど、コロッケうどんとか、月亭花鳥の面白さとか、オンナゴコロについてとか」
マスター、笑いの混じったため息を漏らす。
「どこで知合ったんです? その方と」
マスター、一瞬考えて、
「15年くらい前になるかな。不思議な出会いだったね。当時好きなミュージシャンがいて、その音源ばかり聞いてたんだけど。結構昔のミュージシャンなんだけどね。
で、たまたま知合った自転車屋のオッサンていうのが、そのミュージシャンの事務所のスタッフだったていう、それだけなんだけど。とても遠い存在が一気に短くなってね。
知合ったときっていうのは、音楽とは全く無関係な政治関連の集会だったんだけど、ずっと音楽の話をしてたよ。それから、ずっと不思議な関係だったね」
女の子がマスターの目を見つめたまま、頷く。
「自転車屋以外に、カフェとか、内装業とか、デザインとかもしていてね。哲学とか、政治とか、人生論とか話すんだけど、同じレベルで音楽があって、美術があって、俗っぽいものがあって、料理があって−−。世界中のいろんなものが同じレベルで存在してるんだよ。適当でありながらテキトーではないんだね。
波長が合ったて言うのかな。何を話しても良いし、詳しく説明しなくても大丈夫っていう。見た目の雰囲気も似てたから、親子に間違われたこともあったよ」
マスター、煙草を取り出してくわえる。火を点けて、深く吸い込んで−−吐く。
「ちょっと見てみたかったですね」
「たぶん、見ていたら笑えるんじゃないかな。オレがふたりっていう感じで。
だけど、長いこと会ってなくてね。ひと月前に入院したって人伝に聞いたんだけど、また会えるだろう、ぐらいにしか思ってなかったから、見舞いにも行かなかったんだよ」
マスター、火の点いた煙草の先を見つめている。
「この曲は、そのオッサンの好きな曲でね」しみじみと頷いて、
「本当にヘンな人だったな」
女の子、ちょっとだけ笑って、「マスターがヘンな人って言うんだから、よほどヘンだったんでしょうね」と。
「まあ、道楽の人、だったからね。そこで共感してたんだと思う。あんまりいないから。
道楽って結構、知性が必要だから。亜沙美さんには難しいかも」マスター、ヒニクめいた笑みを浮かべる。
「失礼ですね。私、これでも知性の人って言われるんですからね、周りから」
「ヤマイダレの?」
マスターの言葉に、女の子の頬が膨れる。
それを見て、マスター、カラカラと笑い声を立てて。
窓の外では雪が舞って。レコード針が時を刻んでいく。
posted by flower at 12:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月04日

あんこ

「どうでもいい話しなんだけど」とマスター、コーヒードリッパーに細い線でお湯を注ぎながら。顔には難しい表情を浮かべている。
バイトの女の子、グラスを拭く手を留めてマスターを見つめている。
「どうでもいい話しなんだけど。ある意味、重要かな」ともう一度、マスター。
芳ばしい香りを立てながらコーヒーポットに暗褐色の液体が溜まっていく。
「亜沙美さんて、和菓子派? 洋菓子派? 端的に言えば、あんこか生クリームかって話しなんだけど」
その言葉にバイトの女の子、戸惑いの声を漏らす。
「悩ましい質問ですね」女の子の眉間には、皺が寄っている。
「ちょっと、これで今後の展開が変わるからね」マスターも渋い表情を浮かべて。
「何があるんですか?」
マスター、渋い表情のまま、顔を左右に降るばかりで応えない。
「どちらもって言うのはナシなんですか?」と云う問いには「ないね」と返す。
「私のベストは抹茶のアイスにつぶしあんが掛かっていて、生クリームが添えられているというものなんですけど。和の硬派な甘味に、生クリームと云う存在が加わることでふんわりした甘さになるんですよ。贅沢感のグレードが上がる感じで。
でも、どちらかで言うとあんこですね。私は硬派がウリですから。生クリームの軟派な感じには負けません」
難しそうな女の子の表情を見て、マスターの口から思わず笑いが漏れる。
「意外だね。女子だから生クリームって言うかと思ってたけど」
女の子、目に力を込めて、あんこです、と頷く。
「ちなみに、どれくらい好き?」
「そうですね、1キロのあんこをスーパーで買ってきて二日くらいで食べてた時期がありましたけど。一度に羊羹二本ぐらいなら平気ですし」
ドリップしたコーヒーをカップに注ぐマスターが驚きと笑いの表情を浮かべる。
「たぶんオレなら血糖値が高くなって、倒れるよ」
「三ヶ月目に、さすがにこれは、って私も思ったんですけど。でも、スイーツと心中するのは、ある意味オトメの本望ですからね」
「お母さんは、間違いなく悲しむと思うよ」
マスター、苦笑しながらカップを女の子の前に出す。
「で、何で訊いたかって言うと、新メニューを考えてて。こんな不況だから、売上を伸ばすために女の子ウケするメニューのひとつでもって。できれば、ラクに作れるヤツね。
で、思ったのが、コーヒーに生クリームを添えた、ウイーン風のヤツか、日本再発見な今の時流に乗って、あんこを入れるかって悩んでね。あと、コーヒーの本読んでたら、たまごの黄身を入れるのがあったんだけどね。いちいちたまごを割るのがメンドウだなって思って止めたけど」
「生クリームよりは、あんこの方がインパクトは強いと思うんですけど、味はどうなんですか?」
やってるみる? と訊いてマスター、冷蔵庫からあんこを持ってきて、女の子のコーヒーに入れる。
口にした女の子、再び悩ましげな表情になる。
マスター、それを見て、苦笑しながら「硬派過ぎるよね」と首を傾げる。
「まあ、でもよく考えたら、女性のお客さん少ないからね。おっさんウケするものを考えるよ。亜沙美さん、何か案ない?」
と、そこで女の子が手を挙げる。
「オムライスに私がケチャップで文字を書くっていうのはどうでしょうか?」
マスター、苦そうな表情を浮かべて、「胃がもたれそうだね」と呟くように。
「ちなみに、何て書くの?」
「人生には三つの坂がある、とか」
「硬派過ぎるよ」マスターがコーヒーを口にして、苦そうな表情を浮かべている。
窓の外では粉雪が舞って、二月のひとときが過ぎていく。
posted by flower at 14:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月17日

朝食

「次はK市にお住まいの、ペンネーム・トナカイさんから。数年前のこと。当時付き合っていた彼女とのイブデートに、笑いを取ろうと上下赤い服(スーツ)で行ったのですが、シャイな彼女はずっと不機嫌そうで、せっかく予約したフレンチの店でも一切盛上がらず、帰り道で『前からあなたのそういうお調子者的な性格が合わないと思っていたの』と切り出され、別れ話に。サンタが仕事を終えて休んでいる頃、私はひとり明石家サンタを見てました」昼下がりの誰もいない店内にはラジオが流れていて、若くないDJがクリスマスの失敗談を読み上げている。
マスター、微かに笑いながら真白い皿の上に、カリカリに焼いた厚めのベーコンとスクランブルエッグ、くし形にカットしたトマトをのせる。その皿の脇にはキツネ色したトーストが2枚。
「モーニングみたいですね」とバイトの女の子。二つ並べたカップにコーヒーを注いで。
「何かね、昨日の夜食べものの本読んでたら食べたくなって。いつも朝食べないから、昼に食べようと思って」マスター、カップを女の子から受け取る。カウンターに立ったままトーストにバターを塗り、齧る。
「亜沙美さんは毎朝ご飯食べてる?」モグモグと口を動かしながら。トーストを持っていない方の手で掴んだフォークがスクランブルエッグの山を崩す。
「そうですね、大体毎朝食べてます」女の子の前には、ホワイトソースがかかった大きなオムライスが置かれている。隣にはハンバーグとコロッケとわずかばかりのサラダ。
「一応、育ち盛りですからね」女の子、大胆にスプーンをオムライスに突き刺して、スプーンの上にのったチキンライスを豪快に頬張る。
「寒い季節はホワイトソースがいいですね」満足そうに頷いて、ハンバーグへスプーンを伸ばす。そして、大胆にハンバーグをカットして口の中へ。
「朝は食べないとダメですよ。身体がエネルギーを欲してますから」口を動かしながら、ガツガツと食べる。。
「亜沙美さんの場合、栄養が過剰な気がするんだけど」
「失礼ですね」女の子の頬が膨らむ。
「ご飯を食べないと身体のサイクルがおかしくなっちゃうんですよ。朝からしっかり食べるのが重要なんですから」
「まぁ、それは一理あるね。それは彼女にも言われるんだけど、夜飲んじゃうと、朝から食べる気がしなくて。だから、朝はフルーツジュースとかだね。たまにシュークリームとか摂取しちゃうけど」
「ダイエット中の女子みたいですね」
「ダイエット中って言ってる女子は、実際はよく食べてるような気がするんだけど」と、ちらっと女の子を見る。
「朝、ガッツリ食べて、昼もきちんと食べてこその健康的なダイエットですから」
その言葉にマスターの口から小さな笑いが漏れる。
「ちなみに亜沙美さんの朝食ってどんなのなの?」
マスター、ベーコンをナイフとフォークで切り、パンにのせて齧る-。
「まちまちですけど、やっぱり和食かな。田舎からいつも大量にお米が贈られてくるんですけど、一緒に贈られてくる朝のお供シリーズが充実しているんですよ。お漬物とか干物とか、佃煮とか。だいたい三膳くらいは食べちゃいますね。実家から贈られてくるものは何でも美味しいですから。他に味噌汁が付きます」
「今日も?」
もちろん、とでも言うように、コロッケを齧りながら大きく頷く女の子。
そして「食事を楽しんでこその人生ですから」と口をモグモグさせながら力強く。
マスターが笑いを留めるようにコーヒーカップに口をつけて。
昼下がりのラジオからはクリスマスソングが流れてきて。

posted by flower at 17:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月09日

ジョギング

「そういえば」とマスター、ひやむぎをつゆにつけながら。
「月がきれいだったね、昨日」と。
「そうですか」とバイトの女の子、ひやむぎをモグモグしながら。
「気付きませんでしたよ」と。
「昨日は猫の目みたいに、紡錘形っていうのかな、円までいかない形の、レモンみたいなヤツだったね。それがぽっかりと群青色の空に浮かんでて」
「絵本に出てきそうな月ですね」
「たぶん、そんな感じ」
ふたり、カウンターを挟んで、間に盛られたひやむぎに箸を伸ばしている。
ひやむぎの隣には、おろしショウガと、刻まれたネギやシソ、ミョウガといった薬味と天ぷらの盛り合わせが置かれている。
「朝晩も若干涼しくなったからね。秋めくっていうのは、いいね」
「いいですね、身体も動かしやすくなって」
女の子、嬉しそうにおろしショウガをつゆに追加する。エビ天をつゆに入れて。
「最近、涼しくなってきたからジョギングを始めようかと思ってるんですよ」
その言葉に、ひやむぎを啜っていたマスターがちょっとむせる。
「珍しいね。どういう風の吹き回し? あんなにメンドウなこと嫌がっていたのに」
女の子、エビ天を頬張って。尻尾まで齧って。
「何ていうかですね。毎年一応、身体は動かしたいと思うんですよ。これくらいの時季に。とくに夏はダラダラしちゃって身体が鈍ってるから、身体を動かして、余分なものを落とさないとって思うんですよ」
へぇ、とマスター、感心した表情を浮かべている。
「だって、身体はシンプルな方がいいじゃないですか。だから余分なものは落として、健全な身体にって思うんですよ。これでも」
女の子、薬味のネギをつゆに追加する。かき揚げをつゆにひたし、食べる。
「まぁ、そうだけどね。一瞬、強迫観念からくる自傷行為かと思ったよ」
その言葉に「失礼ですね」と女の子の頬が膨らむ。
マスターが、若干咳き込みながら苦笑を浮かべて。
「実はオレ、昔はよくジョギングはしてたんだよ。大学を出たくらいの頃。いろいろ嫌なことがあって、嫌なことを忘れるために走っていたってだけなんだけど。
身体がどうこうっていうのより、走っているときの脳みその状態が好きっていうかね、落着くわけではないけど、ラクになれたっていうか」マスターの箸が止まる。
「ちなみに、その嫌なことってなんですか?」女の子、貝柱の天ぷらを食べながら。
「お金がなくなったり、女性に逃げられたり、クルマが壊れたりってことが続いたときだけど。お酒でやり過ごすには重たすぎて、何よりお金がかかるからね。
だから、安く済ませようってわけじゃないけど、何となく走ってみたら気持ちがよかったっていう」ひとり頷くマスター。
「青春を感じますね」と女の子。若干感心したような表情で、ちくわ天に箸を伸ばす。
モラトリアム、だね、と呟いたマスター、天ぷらに箸を伸ばすも、あるのは大葉とししとうの天ぷらのみ。
目の前では女の子がちくわの天ぷらを頬張っている。
「でも、亜沙美さんの食欲には感心するよ」マスター、若干ヒニクをこめて。
「食欲の秋ですからね。やっぱり食べちゃいますよ。だから走らないと」と女の子、さらりと流して。「明日から頑張って、二ヶ月後にはミスユニバース並の体型ですよ」と力強く頷いている。
「ダイエットっていうよりは、悪化しないためのムダなドリョクかと。
ムダこそ、もののあわれなり、だね」マスターが、残りのひやむぎとささやかな天ぷらをさらって。
女の子が美味しそうにお茶を啜って。

posted by flower at 20:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月02日

アイス

「亜沙美さんて、アイスは何が好き?」
アイス屋の広告を見ながら、くわえ煙草のマスター。
「そうですね、だいたい何でも好きなんですけど。あえて挙げるなら、チョコミントとラムレーズンとクッキー&チョコ、ですね」
バイトの女の子。賄いのオムライスを食べながら。
「俺もなんだよね、チョコミントとラムレーズン。あとはマロン系」
オムライスを頬張っていた女の子が、ちょっとだけ笑う。
「マロン系ってところにお歳を感じますね」
「違うよ、あれこそ普遍性のある甘さのひとつだよ。チョコミントもラムレーズンも、ヨーロッパを経由した感があるけど、マロンは、日本的テイストと言っても違和感ないからね。マロンのアイスを食べた後に、濃茶を飲んだら、この良さが判ると思うんだけどな」とマスター、味を思い出したような表情を浮かべている。
「それは美味しそうですね、確かに」女の子が頷く。
「私は、チョコミントを初めて食べたときに、ちょっと世界が広がりましたね。大人の階段を少しだけ上がったような。ラムレーズンは最近食べるようになったんですけど、コクがあっていいですね」
「ラムはいいね。アイスと相性いいよ。
でも、チョコレート味のアイスにブランデーっていうのもいいんだよ」
女の子が口の動きを止めて、マスターを見ている。
「高校のときの同級生で、渋いヤツがいてね。空手やってて、映画好きで、政治の話とかもする変わった人だったんだけど。そいつは、結構料理も好きで。
そいつが教えてくれたんだよ。チョコのアイスにブランデーをかけて、少しだけ溶かしたのが最高にうまいんだぜって。俺もその頃はビールとか日本酒くらいは飲んでたんだけど、ブランデーなんかまともに飲んだことなかったし、そんなふうに洋酒を味わってもいなかったから、ふたつの意味で驚いたね」
女の子が感心したように頷きながら、再びオムライスを頬張り出す。
「それで家でやろうとしたんだけど、まずブランデーなんかなくてね。とりあえず酒なら、って思って日本酒でやってみたんだけど、ちょっと微妙だったね」
そう言って軽く笑うマスター。
「ちなみに一人暮らしを始めたときに、最初にやったことがそれだったよ。確かに美味しいと思ったね。他にも試してみたけど、やっぱりブランデーとラムかな。ラムは量の加減が難しいけど」マスターが大きく口から煙を吐いて。
「そんなお話を聞いたら食べたくなりましたよ。デザートにリクエストします」
女の子が甘えたような表情をつくる。
マスター、困ったような、引き攣ったような表情を浮かべて。煙草を消して。
「チョコレートのアイスはないけど、バニラでやってみようか? アフォガードのコーヒーにブランデーを加えてって美味しそうじゃない?」
それ、いいですね、と大きく頷く女の子。
マスター、手際よくコーヒーをドリップし、ブランデーを加えて、ガラスの容器に盛られたアイスにかける。純白の丘を褐色の液体が落ちていく。
目の前に置かれたアイスにスプーンを刺し込む女の子。口に運び、束の間、目を閉じる。
そして、満足げな息をこぼす。
「間違いないですね」大きく頷く女の子。「これはウケますよ」と。
その言葉に苦笑するマスター。
「何かいつもお店の商品が亜沙美さんの胃袋に消えていっているような」
新たに取り出した煙草を加え、火を点けるマスター。
「気のせいですよ。むしろ私は大いなる一歩への踏み台ですから」と、女の子。ちょっとだけ胸を張って。
「栄養にはなっているんだなと、その胸とお腹を見て思ったよ」
その言葉に女の子が大きく頬を膨らませて。
マスターがニヤリと顔を歪ませて。
9月の空に煙草の煙がゆうらりと。
posted by flower at 23:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月31日

8月31日

「ようやく夏が終わるね」カレンダーをめくりながら、マスターが呟くように。
「そうですね」とバイトの女の子がグラスを拭きながら。
「今日で8月が終わると思うと、嬉しいよ」
「そんなに8月が嫌いなんですか?」
「そうだね。8月は一番嫌いかな。二番目が2月で、三番目が1月」
「8月は暑いからっていうのは判るんですけど、2月と1月はなんでですか?」
マスター、腕を組んで首を傾げて。
「何となく、なんだけど。2月はあの空気感が嫌なんだよね。漠然と寂しい感じがする辺りとか。バレンタインにも縁は無かったしね。1月は、正月明けの間延びしたような感じとか。逆に10月、11月、12月の緊張感のある夜とか、年末へ向けて盛上がっていく雰囲気とかは好きだけど。運気も上がっていくし」
マスター、煙草を取り出して口にくわえる。火を点けて、大きく吸う。
「ビバラ、秋だね」
女の子がその言葉に苦笑する。
「今年は何か夏らしいことしました? 夏の思い出」
女の子が拭いたグラスをカウンターに並べる。そして、大きな欠伸をひとつ。
「何かしたかな? 一応、盆踊りには参加したけど。それくらいかな。あとは、鱧しゃぶとそうめんくらいかな」
「鱧しゃぶ、ですか?」女の子が小さく舌を出して、唇を舐める。
「そうそう、人生で二度目の鱧しゃぶ。美味しいよ。出汁の入った鍋に、さぁっと、薄く切られた鱧の身を通して、ポン酢で食べるんだけど。これが、なかなかいいんだよ。ポン酢には紅葉おろしとネギを入れて。噛み締めたときの鱧の身の弾力とか、口に広がるうま味とか、たまらないね」
女の子がツバを飲込む。
「最後は雑炊にするんだけど、鱧のうま味が移った出汁にご飯を入れて、卵をかけて。思い出すだけで、ヨダレが溢れてくるよ」
マスターも大きくツバを飲込む。
「夏は鱧だね。でもこれぐらいかな、今年の夏の思い出は。亜沙美さんは?」
女の子、話を振られて、ちょっと考える。
「友だちとサイパンに行ったとき、食事をしてて−−テーブルにはお冷やがあったんですけど、グラスの水がなくなったときにボーイさんが来て。
私には流暢な日本語で『もう、終わった?』って聞こえたんですよ。でも、水が欲しかったから首を横に振ったら、何故かボーイさんが注いでくれなくて。私と逆に頷いた友だちには注いでくれたんですけど。
何で?って思って、その話を友だちにしたら、『モア ウォーター?』だよって。かなり恥ずかしかったです」
マスターが苦笑する。口から煙を漏らして。
「でも、夏の思い出、と言うより、亜沙美さんらしいオールシーズンな失敗だと思うけど」
「失礼ですね。夏の浮かれた気分が起こした失敗ですから」と、女の子、頬を膨らませる。
「そう言えば思い出したよ、今年の夏の思い出。怖い夢を見たんだよ、この前。スプラッタ系の怪物に襲われるような。追いつめられて、怪物の顔が迫ってきてね、荒い息が顔に届くくらい。子どものときからホラー系は苦手だから、すごく怖くてね。それで、その怖さに目を醒ますと−−
目の前に、彼女の寝顔があって−−暑さでとても苦しそうに唸っていた、というお話」
息を止めて聞き入っていた女の子の口から呆れた笑い声が漏れてきて。
マスターがさりげなくニヤリと笑って。
posted by flower at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月17日

ご馳走

スタンゲッツを聞きながら、マスターが新聞をめくっている。
と、そこへバイトの女の子がお茶の入った湯呑みを運んできて、マスターの前に置く。
「亜沙美さん、最近何かご馳走食べた?」
マスター、ありがとうとお礼を言って、お茶を啜りながら。
女の子、束の間考えて、「美味しい洋食ですね」と。
マスターがその言葉につられて女の子へ視線を向ける。
「この前、たまたま見つけて入ったお店だったんですけど。カウンターだけの小さな洋食屋さんで、10人も入ったら満席になるような狭さなんですけど、マスターの仕事がよく見えて楽しかったです。
70歳くらいの長身で、ダンディーな方がマスターなんですけど、若いコックさんの動きとは違った、アジのある動きなんですよね。チャーミングな感じの」
マスターが感心したような表情を浮かべて、
「熟練の手技って言うのは、カッコいいからね。ひとつひとつが確実で、カンロクがあって、どこか優雅な感じがして」と。
そうですね、と女の子が頷く。
「そこのマスターは、スパイダーズの井上順似なんですけど、カツレツを作る際の動きがセクシーでしたね。パン粉をつける動きも、揚げているときの動きも。
指の先で揚がり具合を確認するんですけど、DJがレコードをスクラッチする動きみたいに滑らかなんですよね。浅めのフライパンを並べてオムレツを作ったりしながら」
いいね、とマスターがニヤリとしながらアゴの辺りを擦っている。
「ハンバーグとカツレツ、白身魚のフライにオムレツとサラダって組み合わせだったんですけど、至福のひとときでした。お客さんは私たち以外に二人だけだったんですけど、嬉しそうに食べてましたね。フライにかかったタルタルソースが美味しくて」
女の子が少しうっとりとした表情をしている。
「羨ましいよ。こちらは最近ハズレばっかりでね。お寿司が食べたくなって入ったら、全然鮮度がよくなかったり。焼肉屋でもイマイチな感じで。イタリアンも最悪だったね。前菜のサラダで思ったんだけど、香りが立ってないっていう。スパイスもハーブも、まして食材の風味も感じられなくて。結局、最近食べた中でいちばん美味しかったのは、輸入食材店で買った賞味期限切れのチーズと赤ワインだね」
女の子が「チーズとワインですか」と呟くように繰返す。
「そうそう。赤ワインと濃厚なチーズ。とくにチーズがよくてね。クセのあるチーズと言えば、青カビチーズって思うでしょ? でも、それよりもクセが強くて濃いチーズがあってね。ウォッシュタイプって言うんだけど。これの熟成が進んだのが納豆のような臭いなんだけど、濃厚でいいんだよ。これを食べて、濃い赤ワインんで口を洗ってって食べ方なんだけど。まさにマリアージュだね」そう言って、ツバを飲む。
「とても大人な味わい方ですね」
「そうだね。お金はそんなにかからないんだけど、満足度は圧倒的に高いよ。前にお好み焼き屋なんだけど、ワインセラーがあって、粉もん以外にも鴨肉のコンフィとかジビエ系も結構あるっていう変な店に入ってね。そこで何かクセのあるチーズありますかって聞いたら自分が食べるように熟成させてるんですけどって、溶けかかったものを出してくれてね。これがとても濃厚で忘れられなかったんだけど。今回、改めてチーズは賞味期限切れの方が美味しいんだなと思ったよ」マスターが大きく頷いている。
と、女の子「マスターも、晩年ほどいい味が出るんじゃないですか」と、皮肉そうな笑みを浮かべて。
「どうだろう。すでに賞味期限が切れてだいぶ経ってしまったような」と、マスター、肩をすくめて、アメリカのコメディアンのようなポーズをとって。
ふたりの笑う声がこだまして。
posted by flower at 22:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月14日

欠伸

昼下がりのラジオでは誰かのリクエストハガキが読まれている。
マスター、グラスに水を注ぎながら、大きな欠伸をひとつ。
それを見て、バイトの女の子も、欠伸をする。
そして、女の子が「やっぱり、欠伸ってうつりますね」と。
マスターが軽く笑って「前に欠伸している猫の写真を見ていたら欠伸が出たというのがあったよ」と。
「感染力強しですね」と女の子が微笑む。
女の子の前にグラスが差し出される。女の子がグラスに口をつけて、飲む。
「そう言えば、亜沙美さんて、夜中に何かの気配で目が覚めることってある?」
「あまりないですね。だいたい一度眠りに就くと朝までグッスリ派です。田舎にいるときに震度4くらいの大きな地震があったんですけど、全然気付かなくて、皆に唖然とされたことがあります」
マスターがその話に軽く笑う。「亜沙美さんらしいね」と。
「オレはね、意外と気配に敏感ていうか、誰かが隣に居たら眠れないんだよ」
「じゃあ、彼女さんと一緒に眠れないじゃないですか」
「だから、別々に寝てるよ。何より夏は暑いから、離れている方がラクだしね。彼女がクーラー嫌いっていうのもあるけど」
マスター、女の子のグラスに水を追加して、自分もグラスに注いでひといきに飲む。
「この前、眠れない夜があってね。たまに−−月に一回くらいかな、そんな夜があるんだけど。別に霊感が強いわけじゃないんだけど、人気を感じるんだよ。気配が消えた頃に時計を見ると、だいたい午前2時とか3時なんだけどね」
「それって、恐い話ですか?」
「今回のは、ある意味怖かったかな」
そう言って軽く笑うマスター。女の子は不安げな表情を浮かべている。
「目を開けても見えないんだけど、目を閉じると気配を感じるっていうかね。傍に何かがいるように感じて眠れないっていうか。
だいたい、気分的に冴えてないときが多いかな。身体が重く感じて眠ろうとするんだけど、深く眠れないっていう。一応、眠っているんだけど、意識がある感じっていうかね」
女の子が怪訝そうな顔でマスターを見つめている。
「で、四日くらい前もそんなので眠れなかったんだよ。壁際にベッドをおいて寝てるんだけど、壁に何かがいるような気がして」
女の子が、小さく悲鳴を上げる。
「昔から−−小学生くらいのときからかな、そんなことがあるから、今回もアレかなって思ってたんだよ。誰かに見られているって。
ただ、今回は若干、壁の気配にリアリティがあったっていうか、身体を何かが触っているような感じがしたりして。ほんとうに気味が悪いっていうかね。ちょっと金縛り的な感じで動けないんだけど、身体を何かが触れているっていう」
女の子が両手で顔を覆っている。
「まぁ、別にそれだけで、何もなかったんだけど。時計を見たら、やっぱり午前3時くらいでね。あぁ、またかって」
女の子、まだ怪訝そうな表情を浮かべながら「終わりですか?」と。
マスター、軽く首を横に振って「で、その続きなんだけど。昨日−−」と。
「ベッドの下を掃除してたら、出てきてね。その正体と思われるものが」
女の子が、ツバを飲込む。
「−−茶色い、昆虫の屍骸が。こいつか、って思ったね」
女の子が鼻の孔を膨らませて、「それも怖いんですけど」と。
マスターが大きな声で笑う。
「ほんとに不思議だったよ。キッチンから離れてるし、食べものとかもないからね。ちなみに学生のときは、枕元をハサミムシが走っていったっていうのがあってね。水場からかなり離れているのに」
半ば笑いながら、首を傾げるマスター。ハンカチを取り出し、首筋の汗を拭う。
それを見て女の子。
「マスターの体質に拠るんじゃないですか。汗で湿っていて、アルコール臭がするっていう」
マスターの口から小さく息が漏れて、二人の笑い声が店に響いて。
ラジオからはボサノバが流れてきて。
posted by flower at 12:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月23日

夏枯れ

昼下がりの店内には客は居らず、窓の外の風鈴も黙ったまま。
「夏だね」とマスター。窓の外を眺めながら。
「太陽のせいで、青い空も黄色みがかって見えるよ」と。
「そうですね」とバイトの女の子。グラスを拭きながら。
「最近、何を食べたらいいか判らないんだよ。そうめんが好きでよく食べるんだけど、飽きたしね。肉も魚も、イマイチ気がのらないんだよ」そう言って、ほうと息を吐く。
グラスを拭いている女の子がマスターの顔を覗き込むようにして、
「そう言えば少し痩せたような、気もしますね。食欲ないんですか?」と。
マスター、頷いて「痩せた?」と。頬に手を当てて、擦るようにして。
女の子、頷きながら「頬が少しこけたんじゃないですか」と応える。
頬を撫でているマスター、嬉しそうな表情を浮かべて、
「ダイエットは失敗しがちだけど、これで痩せられたらラクでいいね」と。
その言葉に、女の子が呆れたような顔をする。
そして、「ちょっと心配したんですよ」と。
少し気まずそうな苦笑いを浮かべて、マスター、煙草をくわえて。火を点ける。
「でも、毎日何食べようかと悩むんだよね。フツウなら夏だから、うなぎとか、ハモとか、鮎なんかを食べようって思うんだけど。今年は何を食べたらいいか判らないっていうか。メニューを考えるのが面倒っていうか」ゆっくりと煙草を吸って、煙を吐いて。
「ゴーヤの炒め物はどうなんです? ゴーヤチャンプルーとか」
「悪くないね。油と苦みの相性がいいね。ゴーヤの酢の物とかもいいけど。あと、スライスしたキュウリを塩で軽く揉んで、おろしたショウガと和えるのも、いいな。ズッキーニのニンニク炒めも。言われると、考えるんだけどね」
マスター、自分の言葉に頷いている。
「カレーもいいんじゃないですか。夏野菜をたくさん入れて」
「いいね。野菜を素揚げして、トッピング的に添えてもいいかもね。ナス、カボチャ、ピーマン、トマト」
ふたり、しばらく、あれこれと料理の名前を挙げていく。
と、マスター、何かを思い出したような表情をして。
「そうか、今年は夏の味覚をそんなに味わってないんだ」と。
「いつもなら、季節の野菜とか果物とか、それなりに食べてたんだけど、今年は全然だね。食べてても意識してないっていうか」煙草の煙を細く吐出して。
「そうなんですか? いつもいろいろ食べてると思うんですけど」
女の子が呆れたような表情を再度浮かべる。
「食べてるはずなんだけど、何て言うのか、楽しむというほどではないんだよ。寒かった春の後の、急な暑さのせいで、味のグラデーションがなかったっていうかね。いつもなら、この時季にこれを食べるってなるんだけど。茹でたイカをショウガ醤油で食べるとかね。振り返ると、今年は体感しているものと、味の歳時記との間にギャップがあったんだよ。だから、あれを食べたいってならずに、何食べようかって悩んでたんだ」
と、またしてもひとり頷いている。
「でも、いろいろ食べものを考えてたら、急に食欲が湧いてきたよ」
その言葉に女の子が失笑して、
「食欲がないっていうより、ただ、やる気がなかったってだけなんじゃないですか」と。
マスター、「そうかもね」と笑いながら。
「せっかく痩せたのに、リバウンドだよ」
窓の外で風鈴がなって。夏の午後。
posted by flower at 14:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月11日

バルビエリ

昼下がりの店内にはガトー・バルビエリが流れている。
マスター、ぼんやりしながら煙草を吸っている。
それを見て「何かあったんですか?」とバイトの女の子、グラスを拭きながら。少し首を傾げて。
「ちょっとね」とマスター、短くなった煙草を灰皿で消しながら。
「昨日、部屋の整理をしてたら、前に友人から届いた手紙が出てきてね。今、日本の裏側辺りにいる。南米から中米、北米と北上していって、終点がニューヨークでバルビエリのライブだって書いてあってね。昔の手紙なんだけど、羨ましいなって思って」
マスター、バルビエリのレコードジャケットを手にして見つめている。
「そんなに思い入れがあるんですか?」
マスター、軽く返事を返すと、煙草を新たに取り出して火を点ける。
「何だろう。青春期の一時期に毎日のように聴いててね。バルビエリとエクトル・ラボー、カマロン、竹山、ユパンキ辺りは。魂の叫びって言うのかな。コルトレーンやマイルス、若くして死んでいったロックの人とは違った、土臭さが妙にカッコ良くて」マスター、煙草を吸い込んで大きく煙を吐いて。
「亜沙美さん、魂が殴られるって感覚、分かる?」
女の子、少し考えて「ガツンて来る感じですか?」
まぁ、そんな感じかな、とマスター。頷きながら。
「中古のレコード屋で、ジャケットが気になって買ってね。家でヘッドホンで聴いたら驚きだったよ。自分の知らない巨大な世界がレコード一枚分の中に存在してて。オレ、感動とか興奮すると笑う体質なんだけど。ずっと聴いてる間笑いが止まらなかったよ。疾走感とか、民族性とか評論家的な言葉よりも、成立させている世界観というのが、衝撃でね。まぁ、とにかく魂を殴られたんだよ」
バイトの女の子、グラスを拭く手を止めてマスターを見つめている。
「で、この衝撃を伝えたくて、当時の唯一の親友に聴かせたんだよね。そしたら、そいつも『これはヤバいね』って。あれは、かなりな事件だったね。
そいつはそれから南米にハマって、南米の音楽を集めるようになって、向こうに旅に行って、いろいろ写真撮ってるうちに写真家になって−−」
マスター、グラスに水を注ぐとひといきにそれを飲む。
「あれで人生の進路が決まってしまったんだよね。
いろいろ音楽を聴いたけど、やっぱり何かあるとバルビエリを聴いてるね。
いつか観てみたいって思ってるんだけど」
女の子が不思議そうに見つめている。
「マスターは、今の人生に満足してないんですか?」
マスター、束の間考えて。
「たぶん、満足ではないね。物質的に足りてないとか、お金がない、とかじゃなくて。魂が何かを求めてるっていうかね。どこかで旅に憧れてるっていう。
旅をすることが目的の旅に。巨大な価値観に遭いたいって」
マスター、再び水を注いで、すぐに飲み干す。
女の子、手を止めて、マスターを見つめながら
「じゃぁ、旅に出ましょうよ。魂を殴られに」と。
その言葉にマスター、頷く。
そして「だね。人生は、魂を殴られた方が愉しいからね」と。
バルビエリのサックスが大きくブロウされて。
立ち昇る煙草の煙が歪んで。昼下がりのひとときが過ぎていく。
posted by flower at 11:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月28日

ポーカー

「亜沙美さんて、トランプのゲームってどれくらい知ってるの?」
くわえ煙草のマスター、トランプを手際よくきりながら。
料理の本を手にバイトの女の子、「そうですね」と束の間考えて。
「ババ抜きと、大富豪、ポーカー、ページワン、スピード。あとは豚のしっぽ、かな。あと、七並べとセブンブリッジ」
「結構知ってるんだね」
「一族でカードゲーム好きなんです。お正月とかお盆とか、従姉妹が遊びに来るとだいたいやってましたから」
マスターが頷きながら、煙草の灰をポンポンと灰皿に落とす。
「うちの田舎だけかも知れないんですけど。大富豪に8切りというローカルなルールがあるんですよ。ひとまず8までのやりとりならそこで切れるっていう」
「初めて聞いたね」とマスター、トランプをふたつの山に分けて。両手の中指と親指でそれぞれ挟んで持ち、トランプの背をひとさし指の背中で抑えるようにして。
「8切りか」呟くように。眉間に皺を寄せるマスター。
「ゴニンカンて知ってる? 青森ローカルなカードゲームなんだけど」
女の子が首を横に振る。
「一応、ニンテンドーのゲームにあったかな。地元ではエッコトリって言うんだけどね」
女の子が不安げにマスターの手元を見ている。
親指同士を近づけたカードを勢いよくパラパラと落としていき、交互にカードの頭を重ね合わせていく。そして重なったトランプの山を、親指を合わせるようにしてできた掌の輪の中でシュルルと落とすようにして深くまで重ね合わせ、再び丁寧にきれいなひとつの山にする。
女の子から感心の声が漏れる。
そして「相変わらず、そういう意味のないものは上手ですよね」と。
「まぁ、人生なんてそんなものじゃない。意味のないものの方が面白いよ」とマスター。苦笑を浮かべながら。「一応、合コン用のネタ、だったんだけどね」
「一瞬気は惹かれますけど、微妙な感じが」
苦笑いするマスターの口許から煙が漏れる。マスター、トランプを女の子と自分の前に5枚ずつ置く。そして「チェンジは2回までね」と。
「そう、ゴニンカンなんだけどね。かなり高度な駆け引きのゲームでね、知ってるカードゲームとは全然違った感覚だったよ。
五人でやるからゴニンカンで、三人でやるときはサンニンカンなんだけど。絵札を獲り合うゲームで、だいたい団体戦に近い形でやるんだよ。奇数だから2対3とか、1対2とかなんだけど、少ない方にはそれなりのアドバンテージが与えられてて、勝つとボーナスポイントが付いたり。
初めてやったけど、未知の世界に踏み込んだような、違和感というか、開拓のしがいのある世界だと思ったよ。ちなみに毎年五所川原で全国大会があるらしいんだよね」
ふぅんという感じでカードを眺める女の子。2枚チェンジして。
マスターも2枚チェンジする。
「でも珍しいですね。ローカルなカードゲームって」女の子が1枚チェンジする。
「あまりね、鬼ごっこの言葉が違うとかならあるけど。『ぼんさんが屁をこいた』とか」
「なんですか、それ」
「東では『だるまさんが転んだ』だね。あとこっちだとジャンケンを『インジャン』とか『ジャイケン』とか言うけど」マスター、3枚チェンジする。
「ちなみに、『ぼんさんが屁をこいた』の後には『そしたら臭かった』っていう言葉が続くんだよ」
その言葉に、女の子が少し唖然とした表情を浮かべて「何と言うか、子どもながらにシュールですね」と。
「オトナの階段はいつも少しだけシュールなんだよ」
勝負ね、とカードを広げると
女の子はフルハウスで、マスターはワンペア。
「カードゲームの弱い男性は魅力減ですよ」との女の子の言葉に、マスターが三たび苦笑いを浮かべる。そして「長らく合コン行ってないから」と。
「オトナの階段を昇った方とはあまり思えないですね」
「残念ながら、踏み外した方だから」女の子の冷たい視線にマスター、首をすくめて。
時計の鐘がふたつ鳴って。
posted by flower at 10:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月21日

そーめん

人気のない午後の店内にはジャッキー・ミトゥのトロピカルな音楽が流れている。
「亜沙美さん、ごはん何食べたい?」新聞に目を落としたまま、マスター。
「何でしょうね。暑くなってくると何を食べたら良いのか判らなくなるんですよ。寒かったら温まるものとか、旬な食材が思いつくんですけど」少し悩んで、バイトの女の子。
「やっぱり、体力が落ちないように、ガッツリ、ですかね」と。グラスを拭きながら。
「ガッツリ、ね」マスター、軽く笑って。「オールシーズンな気がするけど」と。
その言葉に「失礼ですね。何よりも伸び盛りなんですから」と女の子の頬が膨らむ。
マスター、苦笑を浮かべて「で、結局何にする? 和・洋・中で言えば」と。
「そうですね。気分的には洋っていうかイタリアなんですけど、体調的には和な感じが」
「難しいリクエストだね」マスター、新聞を畳んで立ち上がると、キッチンに立つ。
「パスタをそーめん風に食べるっていうのでどう? これはなかなかいけると思うんだけど。トマトジュースにバジルを加えたつけ汁に、極細のカペッリーニをそーめん風にって感じだね。付け合わせにランチの残りのイカのフリッターかな。
家で前に作ったんだけど、なかなか良くてね。まぁ、冷製パスタだね」
その言葉に女の子が頷きながら、「たまらないですね」と。
マスター、手際よく準備を始める。
トマトジュースに若干の麺つゆとバルサミコ酢を加え、トマトをカットし、生のバジルを細かく刻み−−。
油鍋を加熱し、下準備をしていたいかとパプリカに衣をつけ、揚げる。
カペッリーニを茹で、氷水で締める。
しばらくして、女の子の前に盛りつけられた料理が出される。
真白い皿には、一口サイズにくるっと巻かれたパスタが並び、その上に小さくカットされたトマトとバジルが散らされている。
別の皿には、いかと赤と黄色のパプリカのフリッター。
そして、「お好みで、タバスコを」と、ドクロのホルダーが付いたボトルが置かれる。
女の子が嬉しそうに「いただきます」と言って、つけ汁にカットしたトマトとバジルを加え、パスタをひたし、啜る。
一瞬の後、女の子の鼻が開き、歓喜の息が漏れる。そして、大きく頷く。
「なかなかいいでしょう」ちょっと得意げな顔のマスター。そちらもどうぞ、とフリッターを促す。
「こちらもいいですね」女の子の顔に笑みが浮かぶ。
煙草をくわえて、ちょっと一服して「こっちは、少し衣に粉チーズを混ぜ込んでるんだよ。トマトとバジルとの相性いいからね」
女の子が適当に頷きながら黙々と食べている。次々と消えていく皿の上パスタ。
それを見て、マスターが「もうちょっと茹でようか」と少し心配げに。
どうしようか悩みつつも「そうですね。もう少しいただきたいかも」と返す女の子。
「トマトとバジルの風味に食欲が加速しますね。このフリッターもいいアクセントになってますよ」多くを語らず、箸をすすめる女の子。
「この相性を発見したイタリア人に感謝しますよ」会話が断片になる。
パスタのなくなりかけた皿に追加が盛られる。
「これは何杯でもいけそうですよ。夏バテ対策にいいですね」
止まることなく動いている箸を眺めながら、マスターの口から煙が漏れる。
「何かアレだね。そーめんと言うよりはわんこそばな感じが。亜沙美さんが夏バテすることはなさそうだよ」
「美味しいからしょうがないんですよ。美味しいものは罪つくりなんです」と女の子、頬を膨らませて。
その言葉に「まぁ、そうかもね」とマスター頷いて、軽く笑って。
ジャッキー・ミトゥのキーボードが梅雨の前のひとときを優しく撫でて。
posted by flower at 14:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月12日

オマジナイ

昼下がりの客の居ない店内にはラジオが流れていて、女性のDJがお喋りをしている。
「今日のテーマは『オマジナイ』。みなさんがご存知のオマジナイがありましたら教えて下さいね、と先週お伝えしたところ、結構なお葉書が届きました。ありがとう。
では、早速。K市M区にお住まいの、ラジオネーム・ショウスケさんからのお手紙。
こんにちは。わたしの田舎に伝わるオマジナイを教えますね。地震のときに言うオマジナイなんですけれど、『マンザラクマンザラク』と言います。わたしの母の実家の方ではメジャーなものですが、地震が来たときに決まって口にします。意味は分かりませんが、早く無事に沈まれ、とかそんなニュアンスかと思います。
先日帰省したときに、地震があったんですが、母はこの言葉を唱えながら、庭の樫の木につかまっていました。地震が終わって落着いてみると、ちょっとかわいかったです」
グラスを磨いていたバイトの女の子が笑いながら
「マスターは、『マンザラクマンザラク』って知ってました? 母の実家の方では結構言うんですけど」と。
新聞に目を落としているマスター、大きな欠伸をしながら
「いやぁ、初耳だね。何だろうね、大陸的な語感だなと思ったけど。『萬歳楽』って吉祥の舞があったと思うけど、それとは関係ないのかな」
「どうでしょうね。私の田舎のニュアンスでは、そんな感じは全然なかったですけど」
グラスを拭き終えた女の子がカウンターの席に腰を下ろす。
マスター、ふぅんと頷きながら、興味深いね、と呟くように。
女の子、両の手を上に伸ばして、伸びをして
「昔、夏休みで田舎に遊びにいったときに、ちょうど地震があって。お昼時に。そのとき母の姉妹が−−五人姉妹なんですけど、みな一斉に唱えだして、茶碗とお箸を持ったまま。ちょっとインパクト強かったです」と。
マスター、ちょっと笑って
「茶碗と箸を持ったまま、というところに亜沙美さんの血の繋がりを感じるよ」と。
「でも、もうオマジナイという文化があまり見られなくなったよね。あれも精神文化だから、都市の肥大化とともに結構失われたね」煙草を取り出して、火を点ける。
マスター、指に挟んだ煙草を吸い込んで煙を吐いて
「そう言えば、両想いになれるオマジナイというのがあったかな」と。
女の子、興味ありげな視線を送る。
「中学のときに流行ったんだけど。消しゴムに好きな人の名前を赤ペンで書込んで使い切ったら想いが届くとか、そんなの」
「それなら似たようなのがありましたよ。私の田舎では、毎朝トーストにケチャップで好きな人の名前を書いて見られないように食べるっていうのを一週間続けると想いが届くっていうのでしたけど。
ロマンチックな私もそれをやろうと思ったんですけど、私の実家は御飯派なんですよ。だから、海苔の佃煮で御飯に名前を書いて食べてましたけど」
と、マスターの口から笑いとため息の混じったものがこぼれる。
「ロマンチックじゃないよ、それ。赤い文字っていうところが重要だと思うんだけど。黒い文字ってどちらかというと呪いっぽいよ」
「失礼ですね。相手を想う気持ちは一緒ですよ」
「まぁ、確かに相手を想う気持ちは呪いと紙一重な気はするけど。亜沙美さんの場合は、紙一重で呪いかも」
「本当に失礼ですね」女の子の頬がかわいく膨らむ。
と、ラジオのDJ。「では、ここで一曲。ラジオネーム・ショウスケさんからのリクエストでキャンディーズの『かわいい悪魔』」
posted by flower at 08:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月28日

店内にはアルゾ&ユーディーンが流れている。
カウンターの席に腰を下ろして、少し憂鬱げな顔をしているバイトの女の子。
マスター、それを気にして「何かあったの?」と。
女の子「ツイてないんです」と言って、ため息を吐く。
マスター、軽く笑いながら「まぁ、そんな日もあるよ」と。
「サイフを落としたり、家の鍵がなくなったり、気になってた男の子に彼女がいたりで、今週は神様は不公平なんだと思いました。今日はコンビニ入るのに傘を外に置いてたら盗られましたし。お気に入りだったんですよ」
マスター、煙草を取り出してくわえる。
「26のときだったかな。オレが一番ツイてなかったときっていうのが。基本的にツイてないこと多いんだけど。トータルで人生の9割くらいがダメで、残りの1割が濃密に良い感じかな」と言って、くわえた煙草に火を点ける。
「26のときにクルマ持ってたんだけど。サーブってクルマ。飛行機みたいなデザインとか、クリーム色のソファーとかカッコ良くて気に入ってたんだけど、それが突然壊れてね。しかも、女の子に逃げられて、傷心旅行に行った帰りに火を噴いて。気が滅入ったよ。ほかにもツイてないこと多くてね。女の子に逃げられるときに、部屋に20万置いてたんだけど、15万が消えていたりとか。愛用していたカメラが動かなくなったりとか。ホントに嫌だったよ」
「ヒドい話ですね」と言いながら、女の子、ちょっと笑っている。
マスター、煙草の煙を吐出して。
「でもね、オレの血筋ってあらかじめシュールなんだけど、そのときも思ってね。母親と兄が心配してくれて、なくなったお金のタシにってそれぞれ5万ずつ寄越して、『これでひとり5万の損失だね』って。嬉しかったよ。だけど、父がね−−あんまり気が利かない方なんだけど、彼が一番立派な封筒で、仰々しく『これで何か旨いものでも喰って悪いことは忘れろ。汗水流して手に入れたお金なんだから、残りは大事に使え』とかエラそうに言ってきて。どれほど入っているのか、って思って開けたら千円札一枚でね。愛情の違いと言うか、人間性を感じたよ」
女の子が、笑っている。
「でも、それはお父様なりの配慮なんじゃないですか。お金じゃなくて、もっと強く生きろとか」
「たぶん、そこまでは考えてないと思うけど。まぁ、彼なりに心配した結果なんだろうとは思ったよ。いろいろと振り返ると小さいことなんだなって思うけど、その状況にいるとツライこと多いからね」
と、マスター、何気に窓の方に目を遣ると、雨の上がった空に虹が架かっているのが見える。
「虹が出てるね。そう言えば誰かの絵に『雨が上がったなら虹も出るさ』ってタイトルの作品があったよ。人生ってそういうものじゃない」
マスター、手元にあったボールペンをクルクルと回している。
「ちなみにマスターが、最近ツラかったことってなんですか?」
マスター、ちょっと考えて、
「この前、結構飲んで酔って帰ったら、家の鍵をなくしてて。彼女に開けてくれって言ったら、そこで反省しなさいと、入れてもらえなかったことかな」
女の子が失笑しながら「幸せな話じゃないですか」と。
「最近よく思うよ。関係が安定しきった恋人ほど怖いひとはいないんだな、と。だから、亜沙美さんのような片思いが一番幸せだよ」
その言葉に、女の子が鼻から息を漏らして、「お父様似なんですね」とボソッと呟いて。
マスターが気まずそうに首をすくめて。
雨上がりの初夏の空は知らんふりして虹と戯れて。
posted by flower at 09:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月22日

ぺんぺん草

バイトの女の子が便箋に絵を描いている。
それをマスター、カウンター越しに眺めて、「やっぱり美術部だね。絵うまいね」と。
女の子が少し照れたように笑う。
「久しく手紙なんて書いたことないな。最後に書いたのいつだろう」
マスター、煙草を取り出して、くわえる。
「誰に書いたんですか?」
「昔はメールなんてなかったから、結構書いたかな。親とか、兄とかに。女の子にも」
女の子が、ちょっとだけ感心したように頷いている。
「15年くらい前は、あちこち旅をしていたから旅先から出したりしたね。シュールなご当地絵葉書で」
と、女の子が何かを思い出したような表情で「そう言えば、お兄さんがいたんですね」と。「どんな人なんです?」
マスター、くわえた煙草の先に火を点けて、頷いて。
「オレよりもシュールで、クールで、気まぐれな方だね」
顔をわずかに歪ませながら、煙を吐く。
「昔、手紙が来てね。彼がアイルランドに、留学じゃないな、生活しに行ってて、そのときに寄越したんだけど。チャップリンのモダンタイムスのポストカードに、20代前半にしか書けなさそうな文面でね。
確かね−−うまくやってるか? オレは今、タフな世界にいる。何をしてもタフじゃないとやっていけない。面白いものもたくさんあるけど、それは毒も含んでいる。
結局、何かを望むなら、何かを差し出さなければダメだ。それが世界のルールだ。だから、タフになれよっていう。
18か19くらいにもらった手紙だから、そんなに理解してなかったけど。いろいろやって、経験を積んで、何となくその意味は判ってきたよ。Be toughだよ、亜沙美さん」
女の子が感心したように、「カッコイイお兄さんじゃないですか」と。
「センスは好いよ。いろいろ笑えるポイントも多いけど。
アイルランドが長いから、英語は達者なんだけど、アイリッシュ訛りなんだよ。ホームステイで日本に来たアイルランド人が『こんな場所で故郷の言葉を聞くことができるなんて』と驚いたくらいだからね。あとは、話術の流れとか、語彙の選択とか、笑えるよ。たぶん亜沙美さんに会ったら『頭にぺんぺん草生えてんじゃねぇ?』って言うよ」
「それってどういう意味ですか?」
「まぁ、彼なりの、ホンワカした人を表する言葉だね。長閑とか、そんな。
基本的に淡々と話して、淡々とオチるから判る人じゃないと、聞き逃すことも多いけど」
マスターがひとり、思い出し笑いをしている。
「でも、ちょっとお会いしてみたいですよ。クールなお兄さん」
「結構面倒なところもあるけどね。音楽はブリティッシュロックしか聞かないし、肉は食べないし、外食の基本はカレーだし。安いものは買わないし。俗っぽいけど、俗っぽくないっていう」
「マスターの、節操のない、軽薄そうな生き方よりはいいと思いますけど」
女の子が皮肉っぽい視線を送る。
失礼だね、とマスター笑いながら。
「まぁ、でも世界で最も身近な存在だと思ってるよ。滅多に会うことも、連絡とることもないけど、不思議なほどに生活がシンクロしてるからね。古本屋で見つけた本とか、気になった映画とか。
そう言えば、昔兄の家に遊びに行った時、部屋のレイアウトがほぼ一緒だったよ。血は水よりも濃いことを感じたね」
と、女の子、少し悩ましげな顔になって
「マスターがふたりいると思うと、面倒さは数倍ですね」と。
マスターが口から大きな煙を吐出しながら、そうかもね、と苦笑して。
昼下がりの窓の外を春の風が吹いていって。


posted by flower at 09:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年03月26日

経年

難しそうな顔で新聞の詰め将棋の欄と将棋盤を見つめるマスター。
と、何気にその後ろを通ったバイトの女の子がマスターの頭髪に反応する。
「白髪、増えましたね」
頭髪に落ちる女の子の視線にマスター、慌てたように手を遣る。
「そうなんだよね。最近いっきに増えた感じがするよ」
二三度指を櫛のように髪に通して、「歳だな」とちょっとため息を吐く。
「まぁ、生きていればそんなこともありますよ」と女の子が大きく頷く。
マスター、傍らの湯呑みに手を伸ばして、音を出してお茶をすすりながら、
「最近ね、肉体に歳を感じるね、何かと。亜沙美さんには判らない感覚だろうけど、ある瞬間に衰えを感じるんだよ。ダメだって思うときをね」と。
不思議そうな目で見る女の子の視線にマスター、一瞬考えて、
「例えば、これくらい呑んでも何でもないって思ってウィスキーとか日本酒を呑んだ翌日に、思いっきり頭痛と吐き気でやられているとか。これぐらい喰えるって思って挑んだものが半分も食べられないとか。限界を感じるんだよ」と。
その言葉に女の子が大きく頷いている。
「この前ショックだったのが、カツカレーがそんなに食べられなくてね。せっかくの休みだからってビールとカツカレーってチョイスだったんだけど。途中でつらくなってきて。胸がもったりしてきたっていうか、入らないんだよ」
そう言って胸の辺りを撫でるマスター。
それを受けて女の子、しみじみと、
「私も先日ケーキバイキングで心が折れそうになりましたよ。せめて10個って思って毎回挑むんですけど、その時は7個目でダメだって思って。挫折しましたよ」と。
マスターが眉間に皺を寄せながら首を傾げる。
「昔はもっとアグレッシブに行けたんですけど、心のどこかに空しさが出てきて。そうなるとダメですね。ケーキはもう沢山は無理です」
マスター、ポケットから煙草を取り出し、火を点ける。
二三度吸って、吐いてと繰返して、「それは大人の階段を昇ったってことだよ」と。
「ある意味、歳を重ねているけど意味が違うよ」
「そうですか、大して変わらないじゃないですか。食べる量が少なくなったって点は一緒ですし」
「何て言うのかな、オレのはもっと文学的なニュアンスで、亜沙美さんのは俗なんだよ」
「カツカレーか、ケーキかって違いだけじゃないですか」
「違うよ。カツカレーとケーキの間には大きな溝があるんだよ」
マスターが苛立たしげに煙草の先を潰す。
「だいたい、あらかじめケーキバイキングというものは空しくなる要素に満ちていて、それに気付いた、というだけのことなんだんよ。オレはあらかじめ行かないけどね」
「違いますよ。ケーキには夢が介在してて、女の子はそれを求める食べものなんですけど。私は食べるうちに現実に気付いたっていう、オトナな想いですよ」
と、女の子大きく頷いている。
と、そこでマスター、思い出したように将棋盤に向かう。
「これだね、この一手」そう呟くように。
女の子、その光景を淡々と眺めている。
「長い過程を経て世界を知る、ということが人間の成熟を意味するんだよ」と、言いながら盤上の駒を動かすマスター。
その光景を眺めながら女の子、「脳みそは子どもじゃん」とぼそっと呟いて。
マスターは嬉しげに駒を弄って。三月の空に終わりを告げるように飛行機雲が引かれて。
posted by flower at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。