2012年02月04日

あんこ

「どうでもいい話しなんだけど」とマスター、コーヒードリッパーに細い線でお湯を注ぎながら。顔には難しい表情を浮かべている。
バイトの女の子、グラスを拭く手を留めてマスターを見つめている。
「どうでもいい話しなんだけど。ある意味、重要かな」ともう一度、マスター。
芳ばしい香りを立てながらコーヒーポットに暗褐色の液体が溜まっていく。
「亜沙美さんて、和菓子派? 洋菓子派? 端的に言えば、あんこか生クリームかって話しなんだけど」
その言葉にバイトの女の子、戸惑いの声を漏らす。
「悩ましい質問ですね」女の子の眉間には、皺が寄っている。
「ちょっと、これで今後の展開が変わるからね」マスターも渋い表情を浮かべて。
「何があるんですか?」
マスター、渋い表情のまま、顔を左右に降るばかりで応えない。
「どちらもって言うのはナシなんですか?」と云う問いには「ないね」と返す。
「私のベストは抹茶のアイスにつぶしあんが掛かっていて、生クリームが添えられているというものなんですけど。和の硬派な甘味に、生クリームと云う存在が加わることでふんわりした甘さになるんですよ。贅沢感のグレードが上がる感じで。
でも、どちらかで言うとあんこですね。私は硬派がウリですから。生クリームの軟派な感じには負けません」
難しそうな女の子の表情を見て、マスターの口から思わず笑いが漏れる。
「意外だね。女子だから生クリームって言うかと思ってたけど」
女の子、目に力を込めて、あんこです、と頷く。
「ちなみに、どれくらい好き?」
「そうですね、1キロのあんこをスーパーで買ってきて二日くらいで食べてた時期がありましたけど。一度に羊羹二本ぐらいなら平気ですし」
ドリップしたコーヒーをカップに注ぐマスターが驚きと笑いの表情を浮かべる。
「たぶんオレなら血糖値が高くなって、倒れるよ」
「三ヶ月目に、さすがにこれは、って私も思ったんですけど。でも、スイーツと心中するのは、ある意味オトメの本望ですからね」
「お母さんは、間違いなく悲しむと思うよ」
マスター、苦笑しながらカップを女の子の前に出す。
「で、何で訊いたかって言うと、新メニューを考えてて。こんな不況だから、売上を伸ばすために女の子ウケするメニューのひとつでもって。できれば、ラクに作れるヤツね。
で、思ったのが、コーヒーに生クリームを添えた、ウイーン風のヤツか、日本再発見な今の時流に乗って、あんこを入れるかって悩んでね。あと、コーヒーの本読んでたら、たまごの黄身を入れるのがあったんだけどね。いちいちたまごを割るのがメンドウだなって思って止めたけど」
「生クリームよりは、あんこの方がインパクトは強いと思うんですけど、味はどうなんですか?」
やってるみる? と訊いてマスター、冷蔵庫からあんこを持ってきて、女の子のコーヒーに入れる。
口にした女の子、再び悩ましげな表情になる。
マスター、それを見て、苦笑しながら「硬派過ぎるよね」と首を傾げる。
「まあ、でもよく考えたら、女性のお客さん少ないからね。おっさんウケするものを考えるよ。亜沙美さん、何か案ない?」
と、そこで女の子が手を挙げる。
「オムライスに私がケチャップで文字を書くっていうのはどうでしょうか?」
マスター、苦そうな表情を浮かべて、「胃がもたれそうだね」と呟くように。
「ちなみに、何て書くの?」
「人生には三つの坂がある、とか」
「硬派過ぎるよ」マスターがコーヒーを口にして、苦そうな表情を浮かべている。
窓の外では粉雪が舞って、二月のひとときが過ぎていく。
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2012年01月28日

淫唇

柔らかい唇だった。
艶かしく潤い、指でなぞるだけで、官能さが込み上げてきた。
女は目を閉じて、私に口づけをねだった。
白い肌と赤い唇のコントラストが欲情を誘う。
私は女の右の頬に手をあて、顔を寄せ−−唇を重ねた。
心地よい弾力が私の唇に訪れる。
強く押付け、少し離し、顔を見つめ−−私は何度かそんなことを繰り返した。
女の顔は目を閉じたままであったが、どこかに恥じらいと性の愉悦とが混じり、いっそう艶やかな表情になっていった。
何度目かの口づけの際に私は女の唇に舌を挿し込んだ。女の唇が開かれて、私の舌にぬるりと絡んできた。淫らな触手のようだった。
舌と舌がもつれ合い、互いの腔内を行きつ戻りつし−−息が荒くなり−−。
女の顔を確かめると、白い頬が紅みを帯び、うっすらと開かれた目が私に次のものを求めているようだった。
だが、私はその唇から離れたくなかった。
世界のあらゆらものの中で最も官能的な、唇から。
私は女の唇を確かめるように、今度は軽く噛んだ。
女の手は私の顔を弄り、私の手は女の身体を弄っている。
白く細い指が耳朶に、耳孔に、項に、小鼻に、唇に挑発するように、優しく触れる。
私の指は女の喉を、鎖骨を、乳房を、肋を撫で−−臀部を強く掴んだ。
女の唇の間から息が強く溢れた。
今度は衣類の隙間から手を挿し込み、大きな臀部を強く、荒々しく掴み、その愛撫に呼応するかのように激しく息の漏れてくる唇を唇で覆った。
閉じられていた女の目が開かれて、さらに淫らな表情になった。
私は臀部を弄っていた手を女の前部へと移し、もうひとつの唇を指で広げた。
温かい液体が指に絡む。
私は貝のような、艶かしい感触を何度も確認しながら、最も敏感な花芯を弄った。
呼吸が大きく速くなり、女の目は懇願するように、私を見つめている。
女のすべてが愛おしくなってきた。
私は女の衣類を剥ぎ取り、下半身を露にすると、潤いを湛えた桃色の花びらに口づけをした。私の舌にも潤いは伝わり、更なる欲情を導く。
女も欲情が加速してくると、その体位を変え、私の下半身に頭部を寄せた。
そして、私の下半身から衣類を奪い、淫茎に魅惑的な唇をあて−−官能的な愛撫を始めた。淫らな音が空間に響く。
欲情に押されて私も女の花びらに激しく舌を這わせた。激しく振る舞うほどに、女の唇には力が込められ、愛撫も力強くなっていった。
海の水よりも濃いほどに潤いが充ちてくると、私たちはようやくひとつになった。
互いの肉体を交錯させ、五感のすべてを官能のなかに埋没させた。
喉が渇けば互いの体液を口にふくみ、感応を確かめるように見つめ合い、いくつもの敏感な場所を指で刺激し、互いの肉体から放たれる生々しい匂いを共有し、淫らな音で痴態を加速させた。
だが、私が最も堪能的だと思ったのはやはり女の唇だった。
禁断の果実とも言うべき、柔らかい唇に触れるたびに私は欲情し、幸福と安寧を感じたのだった。
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2012年01月21日

悪魔の手

学生時代の友人Nの母という人物から電話があった。
入院しているNが会いたいと言っているのだと云う。
「何かお伝えしたいことがあると言うので」
それを聞いて私は数年前のことを思い出した。
数年前−−長い間連絡を取っていなかった友人Nに、偶然にも街で遭った。
彼は昔から派手な遊びを好み、学生時代には高級なイタリア車を乗り回し、高そうな服を着て、キザな連中とつるんでいたりしていた。私とは住んでいる世界が違かったが、何故か性格的にはウマが合い、学食でご飯を食べたり、一緒にクラシックのコンサートを聞きにいったりしたことが度々あった。彼曰く「一緒にいると落着くのだ」そうだ。
金持ちの子息令嬢が通う大学だったので、彼もいいところの出なのだろうと思っていたが、別にそうではないらしかった。そうすると裏には何か秘密があるのだろうと思っていたのだが、彼はいつも「ナイショ」と教えてはくれなかった。結局は、彼の素性を知らなくてもとくに問題のない関係だったので、それ以上追跡することもなく、大学を出た後は二度ほど連絡を取ったっきりで、半ば忘れかけていた存在だった。
「悪魔の存在を信じるか?」
立ち話もなんだから、ということで私たちは喫茶店に入ったのだが、コーヒーが運ばれてきて、互いの近況や懐かしい話をしていると、不意にそんなことを言ったのだった。
私は、見たことがないから何ともわからない、と返したのだが、彼は真顔で「実はいるんだ」と言う。
「学生のときに、オレ、派手に遊んでいただろう。高いクルマに乗って、ブランドものの服を着て。アレは全部悪魔と取引をしたからなんだ。
或る日、古本屋で手に入れたラテン語の本に、『悪魔の喚び方』というのが書いてあって、面白そうだから試してみたんだ。魔法陣と言うのかな、六方星を書いて、周りに数字を書いて。ラテン語の呪文を唱えたんだ。すると、火などないところから、煙が出てきて声がしたんだ。そして、だんだんと身体が現れてきて−−耳の長い変な生き物だった。キリスト教の本なんかに出てくるあんなものとは少し違って、もっと魚とか両生類に近い、気味の悪さだった。
そして、ヤツが言ったんだ、『お前の願いことを、何でも叶えてやろう』と。
オレは、誰にも言ってなかったんだが、実家は貧しい家でね。正確には、没落した家で−−ジイさんが悪いオンナにつかまって、全部獲られてしまって−−まぁ、裕福とは正反対の家だった。だから、貧乏な生き方しか知らなかったというのもあるんだが、カネのある生活に憧れがあってね。悪魔と取引をしたのさ。
『オレの人生を半分やるから、カネのある人生にしてくれ』って。ヤツは変な笑い声を出して頷いたんだ、『わかった』と。そして、『お前の望むことを叶えてやろう。ただ、それはお前が真の幸せを望んだときに終わる。最も悲惨な形で』と言って消えたんだ。
消える前にオレの鳩尾の辺りを叩いていった。後でそこを見ると、掌のような形の、小さな痣ができていた。
それからさ、オマエが知っているオレの姿は。カネを使って、幸せを買うような人生を送って−−。
だけど、あれこれあって気付いたんだ。−−気付いたと言うか、カネで得られる人生に飽きたんだな。何でも手に入ってしまう人生に」
それから彼は正反対の人生を模索し始めたのだと云う。農場を買い取り、自給自足で働くことを愉しみ、自然に拠る困難も含めて生きる悦びを実感していたのだと云う。
「ウシや自然を相手に生きていくのは、なかなか大変だが面白いものだな。だけど、気付いたのさ、結局は−−その生活も悪魔との取引の結果なのだと。
何をしても失敗をすることはなくて、もう、カネを浪費する以外にない人生なんだ。オレの人生は」彼はそんなことを言って悲しげな目をしていた。

病院に行くと「余命幾ばくもないらしいのだが」とNは切り出した。
簡単に言えば、胆のうと肝臓の癌、ということだった。
胆のうが侵され、そこから肝臓に転移したのだそうだが、医者の表現によれば「掌がひっついたような形で、癌細胞が広がっている。手の施しようがないほど」だそうだ。
「医者は言ったんだ。あと、二ヶ月ほどの命だと。だけど、オレは今、四ヶ月ほど長く生きている。死のうと思っても死ねないんだ。自殺を試みたけれど、三度失敗した。
生きているのが嫌なのに、死ぬこともできないんだ。
真の幸せを望んだとき、と悪魔は言ったがオレには判らない。何が真の幸せだったのか。
あれもこれも苦労がないから実感など持ってなかったんだ。だから、心から幸せを感じたことなどないのだよ。今のオレにとって幸せが何か、と言われれば、もっと充実感のある人生だったな。
でなければ、安らかに眠りに就くことだ。今すぐに」
充実した人生の希求と惰性の末路ーー窶れきった彼の背後で、悪魔が笑う声がしたような気がした。
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2011年12月25日

性夜

女の手が私を挑発している。
薄明かりの中で、私の全身をひとつひとつ確かめるように、その細い指で。
髪を掻き分け項をまさぐり、耳の孔を侵し、耳朶を蹂躙し、鼻を、唇を、弄ぶ。
首を、胸をなぞり、臀部までも。そして、私の唇を開けて、舌までも弄る。
「あなたのすべてが愛しいわ」女の唇が私の唇を塞ぐ。
両の手が私のあらゆる場所を撫で、激しく掴み、舌が私の舌に絡みつく。
悶えるような女の肉体は、私の肉体にしがみつき、感応の息を漏らした。
しばらくの間、口唇による交歓が行われた後、舌による挑発を加えて、女の両の手は下へ下へと移動していった。臍を、臀部を挑発し、そして敏感な部分へと指は伸びる。
「あなたの身体が愛しいの」指が私の敏感な部分を挟み込み、上下に動く。硬くなった内部では、体液が蠢いている。
「とてもかわいいわ。かわいくて愛しいのよ」女の唇が硬くなった部分を覆う。
ゆっくりと女の頭が動き、ぬるりとした感触が神経を伝って上昇してくる。
口からは唾液が溢れ、根元を濡らしている。
ときに唇から離し、舌を這わせる。丁寧に、軟体動物のように。ぬめり、ぬめりと。
官能的な昂りが彼女をも濡らしていく。
女の薄い花びらに指を伸ばすと、潤いが蜜となり、滴ってきた。
甘い声を漏らし。
私は女の臀部を私の顔の上に跨がらせ、薄い花びらを丁寧に舐めた。
女の私をふくんだ唇からは声が、鼻からは儚げな息が漏れた。
「いいの」
女は私の愛撫を受けるほどに、甘い声を漏らしながら、激しく返して寄越した。
品のない食べ方のように、音を立てて。
「まだ、だめよ」
その濃厚な愛撫に吐精しそうになると女は意地悪く爪を立てた。
そして、しばらくすると私の硬い部分を下の唇で飲込んだ。
豊かに潤った唇は、舐めるように飲込み、奥の間へと招き入れた。
「気持ちいいわ」
女がゆっくりと腰を前後に動かす。ねちょりとした触感が昇ってくる。
前へ、後ろへと動き、しだいに速くなってきて、潤いが私の下腹部に広がった。
甘く、無防備な声が漏れる。
腰は私に適度な圧迫感を与えながら、官能的な昂りを連れてくる。
「いいわ」
女はそう言って体位を変えた。
くるりと私に背を向け、臀部をこちらに見せながら、上下に揺れる。
薄い明かりの中で、臀部と脚の付け根の隙間に私と女との唯一の結合点が見えた。
淫らな音を立てる水よりも高い粘土を持った体液の存在がその辺りに捉えられた。
上下に動く臀部は激しさを増し、女の声が次第に大きくなっていく。
そして、一瞬の痙攣とともに声が途切れ、腰が落ちた。
私は彼女を下ろすと愛しい部分をゆっくりと口唇で愛撫した。
歓喜の声が漏れてきた。
私は女の上に被さるとその濡れた部分に再び潜り込み、愛液による淫らな音を響かせた。
夜の間、私たちはそんな行為を繰返し、淫らな時間を過ごした。
12月24日のことだった。

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2011年12月17日

朝食

「次はK市にお住まいの、ペンネーム・トナカイさんから。数年前のこと。当時付き合っていた彼女とのイブデートに、笑いを取ろうと上下赤い服(スーツ)で行ったのですが、シャイな彼女はずっと不機嫌そうで、せっかく予約したフレンチの店でも一切盛上がらず、帰り道で『前からあなたのそういうお調子者的な性格が合わないと思っていたの』と切り出され、別れ話に。サンタが仕事を終えて休んでいる頃、私はひとり明石家サンタを見てました」昼下がりの誰もいない店内にはラジオが流れていて、若くないDJがクリスマスの失敗談を読み上げている。
マスター、微かに笑いながら真白い皿の上に、カリカリに焼いた厚めのベーコンとスクランブルエッグ、くし形にカットしたトマトをのせる。その皿の脇にはキツネ色したトーストが2枚。
「モーニングみたいですね」とバイトの女の子。二つ並べたカップにコーヒーを注いで。
「何かね、昨日の夜食べものの本読んでたら食べたくなって。いつも朝食べないから、昼に食べようと思って」マスター、カップを女の子から受け取る。カウンターに立ったままトーストにバターを塗り、齧る。
「亜沙美さんは毎朝ご飯食べてる?」モグモグと口を動かしながら。トーストを持っていない方の手で掴んだフォークがスクランブルエッグの山を崩す。
「そうですね、大体毎朝食べてます」女の子の前には、ホワイトソースがかかった大きなオムライスが置かれている。隣にはハンバーグとコロッケとわずかばかりのサラダ。
「一応、育ち盛りですからね」女の子、大胆にスプーンをオムライスに突き刺して、スプーンの上にのったチキンライスを豪快に頬張る。
「寒い季節はホワイトソースがいいですね」満足そうに頷いて、ハンバーグへスプーンを伸ばす。そして、大胆にハンバーグをカットして口の中へ。
「朝は食べないとダメですよ。身体がエネルギーを欲してますから」口を動かしながら、ガツガツと食べる。。
「亜沙美さんの場合、栄養が過剰な気がするんだけど」
「失礼ですね」女の子の頬が膨らむ。
「ご飯を食べないと身体のサイクルがおかしくなっちゃうんですよ。朝からしっかり食べるのが重要なんですから」
「まぁ、それは一理あるね。それは彼女にも言われるんだけど、夜飲んじゃうと、朝から食べる気がしなくて。だから、朝はフルーツジュースとかだね。たまにシュークリームとか摂取しちゃうけど」
「ダイエット中の女子みたいですね」
「ダイエット中って言ってる女子は、実際はよく食べてるような気がするんだけど」と、ちらっと女の子を見る。
「朝、ガッツリ食べて、昼もきちんと食べてこその健康的なダイエットですから」
その言葉にマスターの口から小さな笑いが漏れる。
「ちなみに亜沙美さんの朝食ってどんなのなの?」
マスター、ベーコンをナイフとフォークで切り、パンにのせて齧る-。
「まちまちですけど、やっぱり和食かな。田舎からいつも大量にお米が贈られてくるんですけど、一緒に贈られてくる朝のお供シリーズが充実しているんですよ。お漬物とか干物とか、佃煮とか。だいたい三膳くらいは食べちゃいますね。実家から贈られてくるものは何でも美味しいですから。他に味噌汁が付きます」
「今日も?」
もちろん、とでも言うように、コロッケを齧りながら大きく頷く女の子。
そして「食事を楽しんでこその人生ですから」と口をモグモグさせながら力強く。
マスターが笑いを留めるようにコーヒーカップに口をつけて。
昼下がりのラジオからはクリスマスソングが流れてきて。

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2011年12月03日

氷雨の記憶

窓の外では雨が降っています。
しとしとと、しとしとと。針のように細い雨が。
貴女は、晩秋と云うには遅過ぎる、そんな雨の雫で濡れた窓を眺めて、ぼんやりと。
貴女と私の間にはティーカップがふたつと、ティーポットがひとつ。
他には豊かなバターの香りを漂わすマドレーヌがみっつ。
そして、古い映画の雑誌が貴女の手元に。
「子どもの頃の記憶なんだけど。おばあちゃんに連れられて、古い映画を観にいったの。
もうその映画館はなくなってしまったんだけど。たぶん、フランス映画。
作品の名前は覚えてないわ。映画の内容も。
だけど、そこに出ていた女優さんがとても綺麗で。
たまに思い出すの、女優さんの顔を」
長い睫毛の大きな瞳は窓の方を向いたまま。
言葉がぽつりぽつりと雫のようにこぼれて。
「もしかしたら載っているかもって思って、古い映画の雑誌を見つけたら買ってみるんだけど、全然載っていなくて」
「映画のシーンで覚えているのが、カフェーで街を眺めているところ。
紅茶とマドレーヌがテーブルの上に置いてあって、落着いたジャズのレコードを聴きながら雨の降る街を、ガラス越しに眺めていて。
もう来ることのない大切な人を、探しているの。
もしかしたら、あの人はまだ、そんなふうに思いながら」
「何でもないようなシーンなんだけど、不思議と印象に残っているわ。
たぶん、女優さんの寂しそうな顔が、とても綺麗に写っていたのと、自分から遠い大人の世界がそこにあるような気がしたから、なんだと思う」
「何年か前、おばあちゃんとそのときの話しになってね。
映画を観たあとに、ふたりで喫茶店に入ったんだけど。
いつもはココアとホットケーキを頼むわたしが、そのときは紅茶とマドレーヌを頼んだのを覚えているって。紅茶の種類もわからないのに、気取ってたって」
貴女はそう言って、可愛らしい笑みを浮かべて。
私は、そんな貴女を見つめながらティーカップを口に近づけて、アールグレイの匂いを楽しむ。
「それともうひとつ、そのときの映画のことで覚えているのが、おばあちゃんが泣いていたということ。
おばあちゃんは、とても厳しい人ってみんなに思われていたの。
わたしにも厳しかったけど、でもふたりでお出かけしたり、お茶をしたりしたわ。
みんなが思っているほど怖い人ではなくて、ユーモアも、茶目っ気もあるひとだった。
そんなおばあちゃんが、映画館の暗闇の中で、そっと泣いていたの。
主人公が雨の降る街を眺めている、そのシーンで。
後で知ったのだけど、おばあちゃんは、本当は好きな人がいたんだって。おじいちゃんではなくて、結婚するもっと前に。
だけど、画家になる夢を追いかけて、船に乗ってヨーロッパへ行ってしまって。
そして、向こうで亡くなってしまったんだって。
わたしが大きくなってから話してくれたわ、みんなには内緒よって。女の約束なんだからって。
この季節の、雨の日になると、そんなことを思い出すの。おばあちゃんとの最後のデートを」
あなたの小さな赤い唇から、わずかに息が漏れて。
大きな瞳を少しだけ潤ませて。
窓の外では冷たい雨が。
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2011年11月20日

湖畔

窓の外には月が半分だけ見えている。
鋭利な刃物で切られてしまった果実のように。半分だけ。宙空に。
そしてもう半分は、大地に浮かんでいた。
湖でもあるのだろう。月灯りで赤く染まった樹々もシンメトリィに、見える。
気付けば、私は見覚えのない空間に居た。
木造の床。漆喰の壁。高い天井からは豪奢なシャンデリアがぶら下がっている。
正面には子どもを抱いた女性の絵画が飾られている。
と、ボーン、ボーンと時計の鳴る音が聞こえた。
音のする方へ目を遣ると、古めかしい大きな時計が目に入った。
ローマ数字の記された円の上で長針と短針が時を刻んでいる。
チク、タク、チク、タク。振り子が音を立てて、左右に揺れる。
チク、タク、チク、タク−−。
不意に振り子の音に、カツカツカツと云う跫が被さり、近付いてきた。
そして、その実体は程なくして私の前に現れた。
黒い鍔広の帽子に、黒のプリーツのスカート、黒いシャツ。
短く結ばれたネクタイだけが赤かった。
「御機嫌よう」彼女はそう言って、夜だと云うのに開かれた日傘をクルクルと回した。
月の灯りが彼女を照らしている。陶製の人形のように、真白い肌。黒く長い髪。長い睫毛。唇の赤が林檎のようだった。その唇が動く。そして、唐突に物語が始まり出す。
「この世界は、秋の終わりにだけ現れる世界なのです」
「秋の終わりにだけ」彼女の言葉を私は反芻した。
そうなのです、と彼女は悲しい表情を浮かべて頷く。
「秋の終わりにだけ、現れるのです。正確には、あの湖に映る木々が色づいている間だけ−−」
彼女が指を窓の外に向けた。「あそこに人が立っているのが見えるでしょうか」そう言って、湖の辺りを指して。細く長い指だった。
「彼がこの家の主です。彼は小さな工場主の家に生まれました。幼い頃から父を手伝い、父が病気に罹り、仕事ができなくなると父のあとを継ぐようになりました。勤勉だった彼は、あれこれと工夫をし、工場をどんどん大きくしていきました。そして工場をいくつも経営し、遠くの国にまで脚を伸ばして取引をするようになり−−富を得るまでになったのです」
湖の畔に男がひとり居るのが見えた。
年齢も、表情も細かくは分からなかったが、どことなく寂しげな雰囲気が漂っていた。
「彼は富を築き、名声を得ました。しかし、彼にも悩みはありました。
心から女性を愛したことがなかったのです。若い頃は、若さゆえに恋もしましたが、未熟ゆえの結末を迎え、青年期には仕事が生活を支配し、地位が安定してくると寄ってくる女性の下心ばかりが気になり−−。
ですが、彼は心を許せる女性を欲しいと思っていたのです。何があっても愛せる女性を欲しいと。それは歳を重ねるごとに強くなっていきました。
そして、彼は神に祈ったのです。心から愛することができる女性が現れますように、何があっても愛せる女性を下さい、と。
すると、或る秋の日、ひとりの女性と出逢いました。森で見かけた鹿を追いかけているうちにこの湖まで来てしまったのだとか。女は見窄らしい装いでしたが、とても美しい顔をしていました。彼は、その女にひと目で恋に落ちました。彼は神の導きであると思ったのです。ふたりはともに暮らすように幸せな時間を過ごしましたが、長くは続きませんでした。女が原因の判らない病に罹ってしまったからです。
男は名医がいると聞けば名医を呼び、良薬があると聞けば取り寄せましたが、一向に回復の兆しは見えませんでした。
女の治らない病気に悩んだ主は、神に祈りました。しかし神はその願いを聞いてはくれませんでした。もうすでにひとつ願い事を聞いてしまっていたからです。
それで−−今度は悪魔と取引をすることにしたのです。
女の病を治して下さい、と黒いミサをしながら彼は祈りました。
すると長い耳を生やした悪魔は現れ、ではお前の命と引き換えならどうだろう、と言いました。男は悩みました。病気が治っても、自分が居なくなってしまっては、女は悲しむばかりだろうと。しかし、このままでは−−。
そこで彼は、ただひとつだけ条件をつけることにしました。
−−あの樹々が色づいている間だけ、この世界に戻して欲しい、と。女と出会ったこの季節に、ふたりで、あの樹々を眺めたい−−そう条件をつけて。
悪魔は軽く笑うと、その条件に頷きました。
それからです。この季節になるとあの湖の畔に男が現れるようになったのは。
女の病気は治り、幾年もこの時季にふたりはあの場所で幸せな時間を過ごしました。
しかし、もう、女は年老いてこの世を去ったと云うのに、男だけがあの場所に取残され−−」
チク、タク、チク、タク−−彼女の唇が停まるとともに、またしても時計の音が聞こえてきた。
湖の畔では、彼の姿を月灯りが浮かび上がらせている。
チク、タク、チク、タク、チク、タク、チク、タク。
「秋の夜には、空しきものばかりが浮かび上がってくるのです」
振り子の音の間で、消え入るように声がした。
だが、その声の方を見ても、黒い服の彼女はもう、居なかった。


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2011年11月12日

首淫

首の綺麗な女だった。
首は白鳥のように細く長く、百合や薔薇の茎や蔓のように気品に充ちていた。
肌の色は、雪が降ったような白さだった。

私はいつもの彼女の首を如何に美しく演出するかに心を砕いた。
胸元の開いたドレスを着せ、象牙や琥珀、アクアマリン−−様々なトップのネックレスを贈った。黒く長い髪も素敵だったが、項が見えるよう高い位置で留めさせた。
いつかどこかで見た、古い映画の女優のような姿だった。

週末には二人だけの夜想会をよく開いた。
出席者は私と彼女だけだった。
青や緑のシックで艶やかなドレスを纏った彼女とワルツを踊り、イタリア産の果実酒を楽しんだ。白い肌の彼女には青や緑の清楚なドレスが良く似合っていた。

レコードに針を落とし、手を取り合ってゆっくりと輪舞する。
くるくると廻りつつ、私の目は彼女の顔を捉えながら、やはり首に見蕩れていた。
白く細く、長い首に。
彼女の存在も素敵であったが、もっとも私の目を惹いたのは、瞳や唇よりも首だった。

本当の愉しみは宴の後だった。
彼女の手を取って寝室まで案内するとワイングラスをブランデーグラスに替え、高貴な香りで口を濡らし、彼女の唇に唇を重ねた。
何度も重ねた。軽いものもあれば、深いものもあった。

官能性が増してくると私の唇は彼女の首に移った。
白い首を慈しむように口づけをし、そして徐々に、子どもがアイスクリームを楽しむように私もそうした。

ドレスを剥ぎ取り、白い肌を露にさせる。
下着は−−花嫁の下着のように、真白いコルセットと、白いガータベルト、白いストッキングも着けたままである。
四肢も細く、魅力的である。
私は、そのひとつひとつにも口づけを施していった。
彼女は優雅でありながら、官能性を持って口づけに応えた。
場所によっては艶かしい声が漏れた。

手に、脚に、口づけを施すと、私の唇は鎖骨に移り、首に戻った。
そして、コルセットの剥ぎ取り、その下に潜んでいた赤い実へと移した。
赤い実を小鳥のように啄んだ際に漏れた女の声は、ブランデーに落としたスターアニスの香りのように、魅惑的に響いた。

女の上に身体を重ねて行為に及んでいる間も、彼女の首が気になって仕方がなかった。私の興奮している感情の多くが、美しい首によるものだった。
強く抱きしめながら、何度も首を愛撫した。
甘く噛み、強く吸い、優しく舌をあてた。

私は彼女の首をどうしたかったのだろう。
あの美しい首を。
ときどき思い出すのだが、最も興奮したのは、あの首に私の唇の痕を残したことよりも、きつく両の手で締めたときであった。
美しく儚いないものが、この私の手の中で−−と思うとそれまでに味わったことのない、背徳を背にしたような歪な興奮が訪れて、私は果ててしまった。

女の写真を見るたびに不思議な感情が、冬の白鳥のように飛来してくる。
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2011年11月05日

月鳴鳥

皮肉なことに、まともに生きようとするほどに、変なものに遭遇してしまう、と云う人種があるとすれば、それには間違いなく私も属することだろう。これは一週間ほど前の奇妙な体験である。
たまに訪れるN町の古いバーで飲んでいたのだが、あまり見ない客が入ってきたのだ。
シルバーグレイの髪やチョコレート色のスーツの着こなしなど容姿は幾分若く見えたが、会話や動きの端々に傘寿は過ぎた気配が見られる御仁だった。
何となく旅に出たくなって、ひとりで出てきたそうで、御仁が隣に腰を下ろした縁もあり、同じくひとり客であった私は彼と言葉を交わすことになった。
初めのうちは旅の話、何とはない生活の話、食べものの話など、どうでもいい会話ばかりをしていたのだが。
ふと、唐突に彼は鳥の話をしだしたのである。

ゲツメイチョウと云う鳥をご存知だろうか。
和名ではそう呼ばれており、漢字では、月に鳴く鳥と書くのだが。
月に向かって鳴く姿から、月から来た歌い手、と呼ぶ地域もあるとか。
海外では澄んだ夜空に響く美しき鳴き声や、月光を浴びて濃い群青の空に神々しい軌跡を描くことから神聖なるものとして扱われていることが多いようだ。
しかし、私の集落では、死人の魂を迎えに来る鳥、と呼ばれていた。
極楽浄土からの使者として伝えられていたのだ。
私はこれまでに三度、その鳥を見た。
一度目はまん丸い月がぽっかりと晩秋の空に浮かんでいたときである。
そのときは、村外れに住む叔母の家へ届け物に行った帰りだった。
久しぶりの訪問と云うこともあり、あれを食べろ、これを食べろ、ともてなしを受けているうちに結構な遅い時間になってしまっていた。
叔母は泊まっていけと云ったが、私は家で待つ母や兄妹たちのことが気になり、帰ることにしたのだった。
街灯もなく、月の明かりだけが頼りの道だった。
とぼとぼと歩いていると、少し先の辺りからホーロロホーロロと声がした。
フクロウやミミズクの声にしては変だなと思った程度で、それが月鳴鳥の声だとは全然思わなかった。ただ、そこに何がいるのだろうと思いその辺りへ近付いていくと、鳥がバサバサと羽を動かして飛んでいった。金色の軌跡を残して。
月の明かりに照らされたその姿は神々しいとしか言い様がなかった。
後日、その先にあった家で不幸があったことを叔母から聞いた。
二度目は、それから三十年後のことである。
それは自分の妹を看取ったときのことであった。
風邪をきっかけに急激に体調を崩した妹はいつしか、鳥が見ている、と家族に譫言のように繰返し言っていたそうだ。
離れて生活をしていた私は、妹が危篤の報を聞いて急いで向かったのだが、妹のいる家に近付く汽車の窓から、あの鳥が飛んでいくのが見えたのだ。そのときも金色の軌跡を描いて。
妹のもとに着いたときには既に息を引取っていた。
私が月鳴鳥を見た時刻が、妹の心肺が停まった頃だったそうだ。

そして、その三度目が今、目の前にある。
貴方には見えていないかも知れないが、いま目の前に美しい鳥が居て、私を見つめているのだ。私は間もなく眼を瞑り、心肺が停まるのを感じるのだろう。

彼はそう言うとお金を払い、ホテルへと帰っていった。
私は御仁が心配になり、宿まで送ったのだったが、別段そのときは何でもなかった。
別れる際に、夜空に金色の軌跡があったなら、私だと思ってくれと云われたのだが、結局のところ私は何かの冗談だろうと、どこか思っていた。

翌日のことである。
御仁が気になりホテルまで行くと、未明に亡くなられたと云うことであった。
聞けば、その筋では名の通った画家だったそうだ。
しばしフロントで感慨に浸っていると、ロビーにあった古いカラクリ時計がちょうど14時を指し、木彫りの鳩が顔を出して二度鳴いた。
残念ながら渇いた声がしただけだった。

posted by flower at 15:30| Comment(0) | TrackBack(0) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月01日

これは2、3年前に聞いた話である。
その頃わたしが手伝っていたバーにときおり飲みにきていた、***と名乗った四十代後半の男性からである。
彼の育った田舎と云うのは、今でこそ少なくはなったものの、俗信が多い集落であったそうだ。
「蛇の日の暦を踏むと、山で蛇に襲われる。田植えの夢は不幸の前兆。葬式の日以外で水にお湯を足してはいけない−−祖母も、母も、叔母も皆そんなことばかりを口にしていた。地震が起これば「マンザラク マンザラク」と云うマジナイを唱え、大地が鎮まるのを願ったり。あのときにはこれ、それのときにはこう、とかなりの数の俗信やマジナイがあったが、祖母も叔母も、私の母も、集落の人たちは皆それらを意識していたよ。
寧ろ生活自体がそうしたものの上に成立していたんじゃないかな。
城下町の出身で、先進的な教育を受けた入り婿の父を除いて、皆信じていたよ」
「そんな俗信のひとつに、『烏啼き』と云うものがあったんだ。
烏が停まって、啼いている家には不幸が起こる、と云うものであったんだけど。
父の言葉に拠れば−−
墓場のお供え物に慣れた鳥だから、葬式があれば餌にありつけるのを知っているのだろう。不幸が起こった後にやってくるのだが、人々の間では不幸と烏とのイメージが結びつき、いつしか逆に先行する形で、烏の訪れが不幸を招くと思われるようになったのだろう。
とのことで、私は子どもながらに妙に納得していた。こういったら生意気だが、科学が無知に光を差す、とそれがきっかけで思うようになっていったのだ」
「私は大学への進学を機に都会へと出、卒業後も帰郷することなく都会での生活を続けていた。その間に私は件の俗信を意識しないようになっていた。科学云々と云うのもあるが、都会では田舎とは同じ記号でも別な意味を持つもので、烏に関しても害鳥と云う意識しか持たないようになっていたからだが、数日前に、ふと思い出してね」
「オフィスビルと信号以外に何にもないような交差点で、やたらと烏が啼くのだよ。
大きな交差点の電柱に停まって。カァカァ、と。気味が悪くてね。
しかも、私の働くオフィスの窓が、啼いている烏と丁度同じ高さでね。職場の皆がうるさいからって烏をそこから追い払おうとするんだけど、不思議と戻ってくるんだ。
結局、その日は夕方になるまで、そこで啼いていたんだが。
翌朝出社すると、ビルの前の交差点に人が集まっていてね。
野次馬的に聞いてみると、事故があったというんだよ。子どもの飛びだしらしいんだけど、ふざけ合っていた子どものうちのひとりが何かの拍子に道路に出てしまって、偶然にもパトカーに追われた猛スピードのクルマがやってきて−−ぶつかってしまったんだそうだ。
で、その話を聞いたときに思い出してね。烏の話を。
偶然にもその烏が向いて啼いていた方が、丁度その現場だったんだ。
アイツらと云うのは、実は本当に不幸が起こるのを知っているのかも知れんね」

何でこの話をしたかと云うと、同じような状況に遭遇したからである。
数日前にちょっとした用で旧友の家を訪ねることになったのだが、隣の家の屋根に烏が停まり、啼いていたのである。一軒家に、数羽の烏が、並んで。
そのときに具体的にどうと云うわけではないが、うっすらと黒い影を感じたのである。
それが今朝の新聞に、強盗が押し入り−−と載っていたのである。
posted by flower at 14:54| Comment(0) | TrackBack(0) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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