2011年09月17日

百合

Lilium amabile
Lilium alexandrae
Lilium arboricola
Lilium auratum
Lilium bolanderi
Lilium bosniacum
Lilium brownii
Lilium bulbiferum
Lilium callosum
Lilium canadense
Lilium candidum
Lilium carniolicum
Lilium cernuum
Lilium chalcedonicum
Lilium columbianum
Lilium concolor
Lilium davidii
Lilium distichum
Lilium formosanum
Lilium grayi
Lilium hansonii
Lilium henryi
Lilium humboldtii
Lilium iridollae
Lilium japonicum
Lilium kelloggii
Lilium kelleyanum
Lilium lancifolium
Lilium ledebourii
Lilium leichtlinii
Lilium leucanthum
Lilium longiflorum
Lilium maculatum
Lilium majoense
Lilium maritimum
Lilium martagon
Lilium medeloides
Lilium michauxii
Lilium michiganense
Lilium monadelphum
Lilium nanum
Lilium neilgherense
Lilium nepalense
Lilium nobilissimum
Lilium occidentale
Lilium oxypetalum
Lilium pardalinum
Lilium parryi
Lilium parvum
Lilium pensylvanicum
Lilium philadelphicum
Lilium philippinense
Lilium polyphyllum
Lilium pomponium
Lilium pumilum
Lilium pyrenaicum
Lilium regale
Lilium rosthornii
Lilium rubellum
Lilium rubescens
Lilium sargentiae
Lilium souliei
Lilium speciosum
Lilium sulphureum
Lilium superbum
Lilium wallichianum
Lilium wardii
Lilium washingtonianum
Lilium wenshanense
Lilium xanthellum

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どんなに百合の名前を並べようとも
あなたの名前よりも高貴なものはない、
とピノッキオは言ったために
あんなにも長い鼻になってしまったのだとか。

「百合の香りの中で死んでしまいたいと思うことがあるの」

「私の帰る家はあの中にしかないのです」と彼女はカサブランカを指さした。

百合のような女だった。真白い肌に、真赤な唇。芳しき香り。だが彼女の名前はクロッカスだった。

「大天使ガブリエルよ、私にもその花を分けてはくれまいか」と欲深な叔母は教会でも欲を張ることを忘れなかった。

私の田舎には、百合の下には蛇がいる、と云う言伝えが存在する。

「心臓の代わりに百合の根を入れてみたんだ」
クロッカスはそう言って眠ってしまった。
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2011年09月09日

ジョギング

「そういえば」とマスター、ひやむぎをつゆにつけながら。
「月がきれいだったね、昨日」と。
「そうですか」とバイトの女の子、ひやむぎをモグモグしながら。
「気付きませんでしたよ」と。
「昨日は猫の目みたいに、紡錘形っていうのかな、円までいかない形の、レモンみたいなヤツだったね。それがぽっかりと群青色の空に浮かんでて」
「絵本に出てきそうな月ですね」
「たぶん、そんな感じ」
ふたり、カウンターを挟んで、間に盛られたひやむぎに箸を伸ばしている。
ひやむぎの隣には、おろしショウガと、刻まれたネギやシソ、ミョウガといった薬味と天ぷらの盛り合わせが置かれている。
「朝晩も若干涼しくなったからね。秋めくっていうのは、いいね」
「いいですね、身体も動かしやすくなって」
女の子、嬉しそうにおろしショウガをつゆに追加する。エビ天をつゆに入れて。
「最近、涼しくなってきたからジョギングを始めようかと思ってるんですよ」
その言葉に、ひやむぎを啜っていたマスターがちょっとむせる。
「珍しいね。どういう風の吹き回し? あんなにメンドウなこと嫌がっていたのに」
女の子、エビ天を頬張って。尻尾まで齧って。
「何ていうかですね。毎年一応、身体は動かしたいと思うんですよ。これくらいの時季に。とくに夏はダラダラしちゃって身体が鈍ってるから、身体を動かして、余分なものを落とさないとって思うんですよ」
へぇ、とマスター、感心した表情を浮かべている。
「だって、身体はシンプルな方がいいじゃないですか。だから余分なものは落として、健全な身体にって思うんですよ。これでも」
女の子、薬味のネギをつゆに追加する。かき揚げをつゆにひたし、食べる。
「まぁ、そうだけどね。一瞬、強迫観念からくる自傷行為かと思ったよ」
その言葉に「失礼ですね」と女の子の頬が膨らむ。
マスターが、若干咳き込みながら苦笑を浮かべて。
「実はオレ、昔はよくジョギングはしてたんだよ。大学を出たくらいの頃。いろいろ嫌なことがあって、嫌なことを忘れるために走っていたってだけなんだけど。
身体がどうこうっていうのより、走っているときの脳みその状態が好きっていうかね、落着くわけではないけど、ラクになれたっていうか」マスターの箸が止まる。
「ちなみに、その嫌なことってなんですか?」女の子、貝柱の天ぷらを食べながら。
「お金がなくなったり、女性に逃げられたり、クルマが壊れたりってことが続いたときだけど。お酒でやり過ごすには重たすぎて、何よりお金がかかるからね。
だから、安く済ませようってわけじゃないけど、何となく走ってみたら気持ちがよかったっていう」ひとり頷くマスター。
「青春を感じますね」と女の子。若干感心したような表情で、ちくわ天に箸を伸ばす。
モラトリアム、だね、と呟いたマスター、天ぷらに箸を伸ばすも、あるのは大葉とししとうの天ぷらのみ。
目の前では女の子がちくわの天ぷらを頬張っている。
「でも、亜沙美さんの食欲には感心するよ」マスター、若干ヒニクをこめて。
「食欲の秋ですからね。やっぱり食べちゃいますよ。だから走らないと」と女の子、さらりと流して。「明日から頑張って、二ヶ月後にはミスユニバース並の体型ですよ」と力強く頷いている。
「ダイエットっていうよりは、悪化しないためのムダなドリョクかと。
ムダこそ、もののあわれなり、だね」マスターが、残りのひやむぎとささやかな天ぷらをさらって。
女の子が美味しそうにお茶を啜って。

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2011年09月03日

淫酒

「紅茶ならロンネフェルトのダージンリンをちょうだい。コーヒーならヒギンスコーヒーのを。とても濃いめで。もちろんブラックよ」
あれこれと注文の多い女だった。
ブレックファストでもランチでもディナーでも。そして、ティータイムのときも。
「わたしの口にするもの、手にするものは、すべてわたしの気に入ったものじゃないと嫌なの。分からない? この『わたし』という絵画を装飾する額縁も、相応でなければならない、ということよ。魅力を損なわず、また、過剰に主張しすぎずに『わたし』という存在を際立たせることができるものよ」
私は、そんな彼女の話に適当に頷きながらコーヒーを、或いは紅茶をサーブするのだった。彼女はいつも何も身に付けない全裸の姿で、お気に入りの革のソファに腰を下ろし、ティータイムを楽しんだ。
「ベッドタイムで楽しむお酒はワインじゃないわ。春ならペルーノ、夏ならラム、秋ならブランデー、冬ならシングルモルトよ。
つまむものはなくてもいいわ。口づけをしながら楽しめばいいんですもの」
私たちはベッドの上でもアルコールを楽しんだ。
もちろん、何も身に付けず、裸のままで。
春ならペルーノ、夏ならラム、秋ならブランデー、冬ならシングルモルトを少しずつ口に流し、高貴な香りを漂わせながら、唇を重ねた。

アルコールに濡れた唇が彼女の魅力を引き立てている。
真白く、滑らかな肌が私に寄り添い、次第に重みが加わってくる。
「いいお酒と、裸の異性がいれば、愉しいひとときになるのよ。
裸の異性も、素敵なひとでなければいけないけど」
女は私の上に跨がり、私の身体を愉しみだした。
唇に、胸に口づけをし、アルコールを垂らし、舌で舐める。
アルコールを垂らす位置は、徐々に下がっていき、臍や、私の敏感なところへと移った。
「わたしが口にするものは、高級なものよ」
そう言って、私の硬直した部位を口にふくんだ。
唇が硬くなった茎を締め付け、腔内で舌が優しく愛撫している。
ときに深くまで飲込み、ときにフルートを吹くように海綿体と体皮が交差する感度の高いポイントを責め、私の反応を楽しんだ。
女は自分の肉体が火照り始めると、私の手を取って自身の望む場所へと導いた。
「胸を揉むときは、優しく、外側から」
「そこに指をかけて。ブランデーの香りを立たせるように、グラスを回す動きをイメージするの」
「アルコールとレーズンの相性は知っているでしょ。ゆっくりとあなたも味わいなさい」
レストランのコースのように、前菜から始まり徐々に盛上っていく。
メインディッシュのひとつである、肉めいたグラジオラスへと口づけを施すと、
女は「そこにお酒を垂らして。どんなカクテルよりも素敵な味になるはずよ」とリクエストした。
私は彼女の言葉に従い、アルコールを垂らし、愛液とともに味わった。
肉体が重なり合い、繋がっている間も、アルコールを楽しんだ。
女の口からアルコールが私の口へと移され、私の口から彼女の口へと運ばれた。

私は淫らにアルコールを楽しみながら、酩酊していく夜を眺めていた。

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2011年09月02日

アイス

「亜沙美さんて、アイスは何が好き?」
アイス屋の広告を見ながら、くわえ煙草のマスター。
「そうですね、だいたい何でも好きなんですけど。あえて挙げるなら、チョコミントとラムレーズンとクッキー&チョコ、ですね」
バイトの女の子。賄いのオムライスを食べながら。
「俺もなんだよね、チョコミントとラムレーズン。あとはマロン系」
オムライスを頬張っていた女の子が、ちょっとだけ笑う。
「マロン系ってところにお歳を感じますね」
「違うよ、あれこそ普遍性のある甘さのひとつだよ。チョコミントもラムレーズンも、ヨーロッパを経由した感があるけど、マロンは、日本的テイストと言っても違和感ないからね。マロンのアイスを食べた後に、濃茶を飲んだら、この良さが判ると思うんだけどな」とマスター、味を思い出したような表情を浮かべている。
「それは美味しそうですね、確かに」女の子が頷く。
「私は、チョコミントを初めて食べたときに、ちょっと世界が広がりましたね。大人の階段を少しだけ上がったような。ラムレーズンは最近食べるようになったんですけど、コクがあっていいですね」
「ラムはいいね。アイスと相性いいよ。
でも、チョコレート味のアイスにブランデーっていうのもいいんだよ」
女の子が口の動きを止めて、マスターを見ている。
「高校のときの同級生で、渋いヤツがいてね。空手やってて、映画好きで、政治の話とかもする変わった人だったんだけど。そいつは、結構料理も好きで。
そいつが教えてくれたんだよ。チョコのアイスにブランデーをかけて、少しだけ溶かしたのが最高にうまいんだぜって。俺もその頃はビールとか日本酒くらいは飲んでたんだけど、ブランデーなんかまともに飲んだことなかったし、そんなふうに洋酒を味わってもいなかったから、ふたつの意味で驚いたね」
女の子が感心したように頷きながら、再びオムライスを頬張り出す。
「それで家でやろうとしたんだけど、まずブランデーなんかなくてね。とりあえず酒なら、って思って日本酒でやってみたんだけど、ちょっと微妙だったね」
そう言って軽く笑うマスター。
「ちなみに一人暮らしを始めたときに、最初にやったことがそれだったよ。確かに美味しいと思ったね。他にも試してみたけど、やっぱりブランデーとラムかな。ラムは量の加減が難しいけど」マスターが大きく口から煙を吐いて。
「そんなお話を聞いたら食べたくなりましたよ。デザートにリクエストします」
女の子が甘えたような表情をつくる。
マスター、困ったような、引き攣ったような表情を浮かべて。煙草を消して。
「チョコレートのアイスはないけど、バニラでやってみようか? アフォガードのコーヒーにブランデーを加えてって美味しそうじゃない?」
それ、いいですね、と大きく頷く女の子。
マスター、手際よくコーヒーをドリップし、ブランデーを加えて、ガラスの容器に盛られたアイスにかける。純白の丘を褐色の液体が落ちていく。
目の前に置かれたアイスにスプーンを刺し込む女の子。口に運び、束の間、目を閉じる。
そして、満足げな息をこぼす。
「間違いないですね」大きく頷く女の子。「これはウケますよ」と。
その言葉に苦笑するマスター。
「何かいつもお店の商品が亜沙美さんの胃袋に消えていっているような」
新たに取り出した煙草を加え、火を点けるマスター。
「気のせいですよ。むしろ私は大いなる一歩への踏み台ですから」と、女の子。ちょっとだけ胸を張って。
「栄養にはなっているんだなと、その胸とお腹を見て思ったよ」
その言葉に女の子が大きく頬を膨らませて。
マスターがニヤリと顔を歪ませて。
9月の空に煙草の煙がゆうらりと。
posted by flower at 23:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

愛奴

「この世に生きている限り、誰でもひと役演じるものよ。猫が猫を演じるように、わたしはわたしを演じているの。あなたを魅了する淫らな女を」
真白い肌に、真黒い下着を身に着けた女は、私の方へ長い脚を伸ばすと、口づけを、と催促した。私にこれを断る理由など、ない。女のほっそりとしていながら、適度に肉感を感じさせる脚に、私は丁寧に口づけを施した。
「今日のあなたは奴隷よ。奴隷を演じるの、わたしの恋の奴隷よ」
紫色のマニキュアを塗った爪が私の鼻をつつき、鼻の頭を下り、そして唇を挑発した。
爪は唇をこじ開け、口へと入ってきて−−舌を弄んだ。
私は言葉を発することもなく、弄ばれ、その状況を楽しんでいる。
「わたしはあなたが好きなの。愛しているの。だから−−こんなことをしたくなるの」
女の両の手が私の顔を包み込み、わずかに潤んだ瞳で私を見つめている。
母が子に向ける眼差しのように。愛情と、得体の知れない何かが混濁している。
「あなたのすべてを支配したいわ」
女の真っ赤な唇が私の唇に迫ってきた。指に代わり、女の舌がぬらぬらと私の腔内を蹂躙する。歯の裏に、舌の裏に侵入し、その感触が口腔を伝って脳にまで響く。
私は抗うようにささやかながら舌で応戦すると、女の口に吸い込まれ、愛撫を受けた。
舌が互いの腔内を行き来する濃密な10分間が経過した。
「もっと気持ちよくさせてあげるわ」
女が手錠を持ち出し、私の両手にかけた。私の両手は臀部の後ろで繋がれ、不自由な状態となった。
「しっかりと立ちなさい」
そう言って、立たせたままの私の肉体に女の舌が這い出す。
耳孔に入り、項を這い、乳頭を挑発し、興奮で脈打つ赤黒い茎を責めた。
「罪深き存在」女の唇と舌と指先が敏感なその部分を長々と責めた。
快楽が下半身から力を奪い、立っているのが困難になる。
私がそのことを訴えると、女は「じゃあ、今度はあなたが奉仕する番よ」と私の頭部を掴んで甘い蜜の香りが漂う花芯へと導いた。
黒く細い下着の一部がかろうじて覆う秘所を鼻の先と口で露にし、小さな赤い突起を丁寧に舐めた。女の身体が脈打ち、声が漏れた。
舌先で包皮とその下にある硬く柔らかい花芯の状況を確認しながら舌を這わせる。
丁寧に往復し、ときに吸う。
女の口からは呻くような声が漏れ、鼻からは荒い息がこぼれた。
仰臥し、広げられた女の肉体に痙攣が見えてくると、私は女のクレパスを丁寧に愛撫した。もちろん、唇と舌と鼻のみで。
クレパスの奥にまで舌を射し込んで甘い蜜をかき出し、鼻の頭で敏感な突起を刺激した。
女の臀が浮き上がり、興奮が加速してくる。
女は私の硬くなっている茎を手にすると自身の内部へと導いた。
艶かしく潤んだもうひとつの唇が私を飲込む。
「いいのよ。もっと気持ちよくなって」女が腰を動かし、私に快楽が下賜される。
上下に動かされる腰の内部で、ザラザラとした肉壁と淫らな襞が私を包んでいる。
口とも、手とも違った趣きの快楽が広がる。
「あなたはわたしの愛の奴隷よ。だから、快楽を与えてあげるの。
わたしはあなたの理性も壊してしまいたいの。ほんとよ。
だって、もっとあなたの本能で、わたしを愛して欲しいんだから」
posted by flower at 08:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 淫詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月31日

8月31日

「ようやく夏が終わるね」カレンダーをめくりながら、マスターが呟くように。
「そうですね」とバイトの女の子がグラスを拭きながら。
「今日で8月が終わると思うと、嬉しいよ」
「そんなに8月が嫌いなんですか?」
「そうだね。8月は一番嫌いかな。二番目が2月で、三番目が1月」
「8月は暑いからっていうのは判るんですけど、2月と1月はなんでですか?」
マスター、腕を組んで首を傾げて。
「何となく、なんだけど。2月はあの空気感が嫌なんだよね。漠然と寂しい感じがする辺りとか。バレンタインにも縁は無かったしね。1月は、正月明けの間延びしたような感じとか。逆に10月、11月、12月の緊張感のある夜とか、年末へ向けて盛上がっていく雰囲気とかは好きだけど。運気も上がっていくし」
マスター、煙草を取り出して口にくわえる。火を点けて、大きく吸う。
「ビバラ、秋だね」
女の子がその言葉に苦笑する。
「今年は何か夏らしいことしました? 夏の思い出」
女の子が拭いたグラスをカウンターに並べる。そして、大きな欠伸をひとつ。
「何かしたかな? 一応、盆踊りには参加したけど。それくらいかな。あとは、鱧しゃぶとそうめんくらいかな」
「鱧しゃぶ、ですか?」女の子が小さく舌を出して、唇を舐める。
「そうそう、人生で二度目の鱧しゃぶ。美味しいよ。出汁の入った鍋に、さぁっと、薄く切られた鱧の身を通して、ポン酢で食べるんだけど。これが、なかなかいいんだよ。ポン酢には紅葉おろしとネギを入れて。噛み締めたときの鱧の身の弾力とか、口に広がるうま味とか、たまらないね」
女の子がツバを飲込む。
「最後は雑炊にするんだけど、鱧のうま味が移った出汁にご飯を入れて、卵をかけて。思い出すだけで、ヨダレが溢れてくるよ」
マスターも大きくツバを飲込む。
「夏は鱧だね。でもこれぐらいかな、今年の夏の思い出は。亜沙美さんは?」
女の子、話を振られて、ちょっと考える。
「友だちとサイパンに行ったとき、食事をしてて−−テーブルにはお冷やがあったんですけど、グラスの水がなくなったときにボーイさんが来て。
私には流暢な日本語で『もう、終わった?』って聞こえたんですよ。でも、水が欲しかったから首を横に振ったら、何故かボーイさんが注いでくれなくて。私と逆に頷いた友だちには注いでくれたんですけど。
何で?って思って、その話を友だちにしたら、『モア ウォーター?』だよって。かなり恥ずかしかったです」
マスターが苦笑する。口から煙を漏らして。
「でも、夏の思い出、と言うより、亜沙美さんらしいオールシーズンな失敗だと思うけど」
「失礼ですね。夏の浮かれた気分が起こした失敗ですから」と、女の子、頬を膨らませる。
「そう言えば思い出したよ、今年の夏の思い出。怖い夢を見たんだよ、この前。スプラッタ系の怪物に襲われるような。追いつめられて、怪物の顔が迫ってきてね、荒い息が顔に届くくらい。子どものときからホラー系は苦手だから、すごく怖くてね。それで、その怖さに目を醒ますと−−
目の前に、彼女の寝顔があって−−暑さでとても苦しそうに唸っていた、というお話」
息を止めて聞き入っていた女の子の口から呆れた笑い声が漏れてきて。
マスターがさりげなくニヤリと笑って。
posted by flower at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 喫茶 ベダード   | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月18日

淫夢

忘れかけた頃に夢の中に現れる女の話である。
女は名を***と言った。
いつも目が覚めれば思い出すことができなかった。

女は真白い肌に、黒く長い髪だった。
胸は薄く、長身でほっそりとした印象だが、臀は大きく、適度な肉感を保っていた。
顔はわずかに瓜実で、目は大きく、そして睫毛が長い。
鼻梁は高く、綺麗に整い、唇は小さかった。
女は「耳がチャームポイントなの」と言った。
確かに可愛らしい耳だった。大きすぎもせず、小さすぎもしないのだが、耳孔の脇にある小さなホクロが不思議な魅力を湛えていた。

女はたびたび私に課題を与えた。
「手を使わずに、服を脱がせて」或いは「口だけでわたしを楽しませて」などと。
私はその言葉に従い、女を手を使わずに脱がせ、或いは唇と舌だけで快楽を与えようとした。

興に乗ってくると私たちは全裸でワルツを踊ったり、カードゲームをしたりした。
片方の手を握り、もう片方の手を腰に添えて、ときに互いの腰を引き寄せ、背中を抱きしめ、クルクルと踊った。
カードゲームではそれぞれへの愛撫が賭けられた。
勝利した側が相手の肉体の好きな箇所へ愛撫をするのである。
負けた側は、目隠しをされ、愛撫されている間、声を出してはいけない。
女は敏感な箇所を責められたときよりも、羞恥の濃い場所を責められたときの方が官能的な呻き声を漏らした。

肉体の悦びが昂り、お互いが濃厚なひとときを持ちたくなってくると女は私を組み敷き、潤度と粘度の高い箇所を私の突端にあてがい、ゆっくりと快楽を高めていった。
わずかに硬い部分同士が触れ合い、溢れてきた女の体液が私の腰の辺りを濡らしていく。
次第に私の突端は彼女のクレパスに飲込まれ、ひとつに繋がった。
女が腰を前後に動かすたびに、私の茎の尖端にある膨らみは、ぬらりとした女の内部で優しく、愛された。
女が好んだのは、互いに座った状態で愛し合うことだった。
曰く「とても密着しているから」とのこと。
私はと言えば、女の後ろ姿を眺めるのが好きだった。細い腰と豊かな臀部という魅惑的な造形は見飽きることがなかった。ただ、官能的な表情の女の顔を見ることができないないのが残念だった。

私たちは肉体が可能な限り、あらゆる角度で、あらゆるスタイルで交わった。
女は愛し方をよく知っていて、「これは古代インドで」とか「秦の時代の中国で」、または「中世のヨーロッパで、貴族の間で流行ったのよ」とその知識をたびたび披露した。
体位の変化に伴い、当初ゆっくりだった腰の振りは次第に速さを増していき、溢れる声も大きくなった。
前後の動きも上下に変わり、浅い抽送から、深いものへと移っていった。
深く強くこちらが呼応すれば、女は悦びの声を漏らした。

私の肉体から蒼白い存在が放たれると、女はいつもそれを神聖な箇所で受け止め、満足げな表情を浮かべた。そして、またね、といって夢の世界から消えていくのだった。
もしかしたらいつの日か夢の中に子どもを連れてくるのでは、と思ったりもするのだが。
杞憂だろうか。
posted by flower at 09:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 淫詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月17日

ご馳走

スタンゲッツを聞きながら、マスターが新聞をめくっている。
と、そこへバイトの女の子がお茶の入った湯呑みを運んできて、マスターの前に置く。
「亜沙美さん、最近何かご馳走食べた?」
マスター、ありがとうとお礼を言って、お茶を啜りながら。
女の子、束の間考えて、「美味しい洋食ですね」と。
マスターがその言葉につられて女の子へ視線を向ける。
「この前、たまたま見つけて入ったお店だったんですけど。カウンターだけの小さな洋食屋さんで、10人も入ったら満席になるような狭さなんですけど、マスターの仕事がよく見えて楽しかったです。
70歳くらいの長身で、ダンディーな方がマスターなんですけど、若いコックさんの動きとは違った、アジのある動きなんですよね。チャーミングな感じの」
マスターが感心したような表情を浮かべて、
「熟練の手技って言うのは、カッコいいからね。ひとつひとつが確実で、カンロクがあって、どこか優雅な感じがして」と。
そうですね、と女の子が頷く。
「そこのマスターは、スパイダーズの井上順似なんですけど、カツレツを作る際の動きがセクシーでしたね。パン粉をつける動きも、揚げているときの動きも。
指の先で揚がり具合を確認するんですけど、DJがレコードをスクラッチする動きみたいに滑らかなんですよね。浅めのフライパンを並べてオムレツを作ったりしながら」
いいね、とマスターがニヤリとしながらアゴの辺りを擦っている。
「ハンバーグとカツレツ、白身魚のフライにオムレツとサラダって組み合わせだったんですけど、至福のひとときでした。お客さんは私たち以外に二人だけだったんですけど、嬉しそうに食べてましたね。フライにかかったタルタルソースが美味しくて」
女の子が少しうっとりとした表情をしている。
「羨ましいよ。こちらは最近ハズレばっかりでね。お寿司が食べたくなって入ったら、全然鮮度がよくなかったり。焼肉屋でもイマイチな感じで。イタリアンも最悪だったね。前菜のサラダで思ったんだけど、香りが立ってないっていう。スパイスもハーブも、まして食材の風味も感じられなくて。結局、最近食べた中でいちばん美味しかったのは、輸入食材店で買った賞味期限切れのチーズと赤ワインだね」
女の子が「チーズとワインですか」と呟くように繰返す。
「そうそう。赤ワインと濃厚なチーズ。とくにチーズがよくてね。クセのあるチーズと言えば、青カビチーズって思うでしょ? でも、それよりもクセが強くて濃いチーズがあってね。ウォッシュタイプって言うんだけど。これの熟成が進んだのが納豆のような臭いなんだけど、濃厚でいいんだよ。これを食べて、濃い赤ワインんで口を洗ってって食べ方なんだけど。まさにマリアージュだね」そう言って、ツバを飲む。
「とても大人な味わい方ですね」
「そうだね。お金はそんなにかからないんだけど、満足度は圧倒的に高いよ。前にお好み焼き屋なんだけど、ワインセラーがあって、粉もん以外にも鴨肉のコンフィとかジビエ系も結構あるっていう変な店に入ってね。そこで何かクセのあるチーズありますかって聞いたら自分が食べるように熟成させてるんですけどって、溶けかかったものを出してくれてね。これがとても濃厚で忘れられなかったんだけど。今回、改めてチーズは賞味期限切れの方が美味しいんだなと思ったよ」マスターが大きく頷いている。
と、女の子「マスターも、晩年ほどいい味が出るんじゃないですか」と、皮肉そうな笑みを浮かべて。
「どうだろう。すでに賞味期限が切れてだいぶ経ってしまったような」と、マスター、肩をすくめて、アメリカのコメディアンのようなポーズをとって。
ふたりの笑う声がこだまして。
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2011年08月16日

淫愛

ある夏の記憶である。
私たちは夜のとばりが下りてくる頃になると部屋を出て街を歩き、太陽が支配する昼の間、カーテンを締めた真っ暗い部屋で愛し合った。

「夏の太陽が嫌いなのよ」彼女の言葉により、百日紅の花が咲き出す頃から秋の蟲が啼き始める頃まで、私たちはそんな生活を送った。

部屋の中に時計はなかった。
カーテンの隙間からわずかに射し込んでくる光と、窓の外の気配だけが私たちの時計だった。

起きている間私たちは、生理的な行為を除けば、純粋に愛し合う行為のみを繰返した。道具を用いることもなく、相手を傷つけることもなく、ふたつの肉体のみでできる愛の行為を繰返した。
「あなたはいっちゃダメなんだから」
あらかじめ私の絶頂は遠ざけられ、行為の終わりにのみ与えられた。
それゆえ私は、自己の肉体的な快楽を抑えながら、彼女の肉体を愛した。

ベッドの近くにはよく冷えた一本の白ワインが置いてあった。
喉が渇けばそれで潤した。
ときに彼女は口にワインをふくみ、私に口移しで飲ませてくれた。
口腔から口腔へワインが移ると、蔓のように舌が絡み合い、愛の時間が始まる。
両の腕が肉体に絡む。
それぞれの背中を強く抱き寄せて擦り、臀部の肉を撫で、掴み、耳を、項を、乳房を、乳頭をまさぐり、舐め、噛む。
「愛している」と言えば、彼女も「私も」と言い、手は下降し、互いの愛の象徴を愛おしんだ。
手の愛撫による興奮が高まってくると、口による愛撫へ移った。
彼女のワインをふくんだ唇が私の肉紫色の茎を包み、心地よく冷やした。
ときに強く吸い、丁寧に舐める。白粉花のような穂の部分へも、果実へも入念な愛撫が施された。
私も彼女の花芯を丁寧に舐めた。美しい花弁へも舌を這わせ、クレパスから滴る愛液を私は何度も味わった。彼女もまた私の尖端から溢れた蜜を何度も吸った。

彼女の感情が高まってくると、私たちは肉体を結合させ、重ねた。
腰では前後へのシンプルな動作を繰返しながら、両の手と口では表現の豊かな交歓を行った。
基本的に私が上になるか、彼女が私の上に乗るか、私が彼女の背後にいくか、横臥した彼女と脚を交錯させて結合するか−−そうしたエターナルな体位であったが、飽きることなく、心地よい疲労が訪れて眠りに就くまで、続けた。

「わたし思うの。この行為は、とても美しい行為だって。肉体以外に何も使わずに愛を表現しているのよ。言葉よりも、もっと深いところで愛を確認しているって思うの。あなたが最後に、わたしのなかで果てるとき、わたしはいつも幸福を感じるわ」
彼女の満足げな言葉は私を喜ばせ、また何度も欲情させた。

そんなふうにして私たちはひと夏を過ごした。
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2011年08月15日

乳房に関するメモ

ルネサンス時代のヴェネツィアでは、女性のバストを剥き出しにすることが政府により奨励されていた。
男性の政治への関心を遠ざけるためだったとか。

古代エジプトでは細いバストが、
古代ギリシア・ローマ時代には豊かに盛り上がった乳房が、
18世紀のロココ時代には、掌サイズの林檎のような乳房が好まれた。

ロココ時代の貴婦人はミルク風呂に入り、香油で入念にマッサージをし、
出かける際には、胸元に白粉をはたき、乳房にほんのり紅をさしていた。

フランス宮廷では乳房をかたどったワイングラスが流行った。

王妃マリー・アントワネットは、自身の豊満なバストを石膏にとり、プラチナの果物皿を作らせた。

マリーのバストは109、ウェストは58。

聖母マリアの乳にはあまたの病気を癒す力があると信じられている。

魔女狩りの際に、定数外乳房は魔女の証とされた。

1885年の労働博覧会では、人工乳房が展示され、偽乳房の「マミフ」は当時の女性の間で流行った。マミフは空気で膨らませるものであったため破裂することもしばしばだったという。

古代では女性の乳房は豊穣を表した。

15世紀後半に登場したアニェス・ソレルの肖像画は、乳房が性的魅力のあるものとして描かれ、人々に衝撃を与えた。

古代ギリシアにおいてはブラジャーの原型と見られるものが存在していたとか。

中世のフランスでは、胸よりも脚の方が性的なものとして見られ、脚による性戯が密かに流行った。


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